平成24年9月23日(日)  目次へ  前回に戻る

 

明日はもう月曜日だなあ。

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唐のころでございますよ。

劉秉仁は江西の江州刺史を命ぜられた。廬山の名勝を擁する地である。

早速赴任する。

「荷物を運ぶのには馬より丈夫で便利でガスよ」

と周旋屋に教えられて、長安でラクダを買った。劉はかつて西域に使いしたことがあったから、ラクダの有用なのはよく知っていたのである。

「水を行くなら舟、陸を行くならラクダよのう」

郡衙に着いた後、下人がラクダをどうしておきましょうかと問うたところ、劉は

「そいつは放っておいても自分で食べられるものを探して何とかする便利なドウブツじゃ。廬山の麓の原に、馬やロバとともに放牧しておけ」

と命じたのであった。

さて。

しばらく後、廬山の麓の田舎者たちは、驚いた。

まったく見知らぬドウブツが馬やロバに混じって草を食べていたからである。

「あ、あれは何じゃ?」

馬よりも大きい。面妖なことに背中に二つのコブがある。しかもこいつはニンゲンの方を見て、しゅー!と鼻息を吹き、そして「にやり」と笑ったのである。

「うひゃあ、ばけものじゃあ」

野人見而大驚、鳴鼓率衆。

野人、見て大いに驚き、鳴鼓して衆を率ゆ。

田舎者どもはそれを見て大いに驚き、太鼓を鳴らして周辺の村人を集めた。

「ばけものじゃ、ばけものが現れたのじゃ」

村人たちは対応を協議し、ついに大挙して放牧場に押し掛け、そのばけものを取り囲んで矢を射かけ、

射殺之。

これを射殺す。

これを射殺したのである。

「やった、やったぞ」

乃以状白州曰、某日獲廬山精于某処。

すなわち状を以て州に白して曰く、「某日、廬山の精を某処において獲たり」と。

それから、上申書を郡衙に送付してきた。

「○月○日、××の野にて廬山の山の怪を射殺し、その死骸を確保しました」

と。

刺史の劉秉仁、「廬山の精」を郡衙に持って来させた。

もちろん、それは

乃所放駝耳。

すなわち放つところの駝なるのみ。

例の、放牧しておいたラクダの死骸でしかなかった。

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唐・皇甫枚「三水小牘」より(「類説」巻48所収)。

「なんのこっちゃ」

とバカにしてはいけません。これは「江州橐駝」(江州のラクダ)といいまして、大したものではなくても、何も知らない人たちのところに行くと神秘的なものとされることがある、という四字熟語のもとになったお話なのでございます。さあ、メモして覚えておこう。

ちなみについでに言っておきますけど、「江州橐駝」の成語の意味は、

@   あなたも何も知らない人たちのところへ行けば賢者扱いされるかも・・・。

ではなくて、

A   あなたも何も気づかないうちに、全く大したことのない人や言説を担ぎ上げて神秘化しているので、その現実に気がついた方がいいよー。

なんですけどね、なかなか自分が騙されている方には気づかないからなあ・・・。

 

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