平成24年5月6日(日)  目次へ  前回に戻る

 

どうするどうするどうする〜、明日からふつうの日だよー! 仮病使って休むかないかも。しかし・・・・

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唐の王玄英、西域に侵入し、中天竺の王・阿羅那順(アーラナジュン)を捕虜にして、長安に凱旋してまいった。

この捕虜の中に、術士の那羅邇婆(ナーラージーバ)というものがおり、

言寿二百歳。

言う、寿二百歳なり、と。

「わしは二百年生きておるんじゃ」

と言うのであった。

太宗皇帝、たいへん興味を持たれ、離宮に彼の研究所を設け、兵部尚書・崔敦礼に監督させて不老長生の薬を作らせることにした。

さて、この那羅邇婆(ナーラージーバ)のいうには、

「不老長生薬を作るのにはわけもない。現にこのわしがそれを使って200歳まで生きているのじゃからな。ただ、薬を作るためには、二つの原料が必要なのじゃ」

崔敦礼がどのような原料が必要なのか問うたところ、那羅邇婆答えていうに―――

その一は、天竺の婆羅門国に産する「畔茶佉」(パンチャーキャ)と呼ばれる液体である。

この液体は、山中の石の窪みの中に蓄えられ、七つの色に変じ、あるときはたいそう熱く、あるときはたいそう冷たい。そして温度に関わらず、

能消草木金鉄。

よく草木金鉄を消す。

草・木・金属類を溶かしてしまう。

のである。もちろん、

人手入則消爛。

人手入らばすなわち消爛す。

人が手を入れると、たちまち手もただれ溶けてしまうのだ。

この液体を手に入れようとするときは、まずラクダの骨を沈める。(おそらくそれが中和剤になるのでしょう、)それからヒョウタンに汲むと汲み取ることができる。

また、この液体の近くには必ず

有石柱似人形守之。

石柱の人形に似たるありてこれを守る。

人間のような形の石の柱がある。ひとびとはこれが液体の守り神なのだ、と言う。

から、これが目印になるであろう。

その二は、「咀頼羅」(ソライラ)という植物性の物質である。

「これは高山中の石崖の下において発見することができるんじゃ。

山腹中有石孔、孔前有樹、状如桑樹、孔中有大毒蛇守之。

山腹中に石孔あり。孔前に樹の状の桑樹の如きありて、孔中に大毒蛇これを守るあり。

まずは石崖に穴があるかどうか。もし穴があればその前に桑の木に似た樹木があるかどうか。その際、穴の中に巨大な毒蛇がおってこの樹を守っているようなら、それが目印じゃ」

この桑のような木の葉が、「咀頼羅」である。

しかし、これを近くまで行って採取しようとすると、守り神の巨大な毒蛇に害されてしまう。近づかずに採取する方法をとらねばならない。

そこでまず、

以大方箭射枝葉。

大方箭を以て枝葉を射る。

大きなやじりが四角になった矢をつがえて、その桑のような木に射かけねばならぬ。

この矢によって、

葉下。

葉下る。

葉が落ちる。

すると、

便有烏鳥銜之飛去、則衆箭射烏而取其葉也。

すなわち烏鳥のこれを銜(ふく)みて飛び去らんとするに、すなわち衆箭にて烏を射てその葉を取るなり。

カラスがこれを咥えて飛び去ろうとする。そこで何本もの矢を射かけてこのカラスを射落とし、その咥えている葉を取るのである。

・・・・那羅邇婆(ナーラージーバ)はこの二種の原料が無いと薬が作れないというので、崔敦礼はあちこちに使いを立ててこれらを入手しようとした。

しかし、これらを入手する前に、那羅邇婆は

死于長安。

長安に死す。

長安の都で死んでしまった。

ついで太宗皇帝も崩御されたので、これらのことは沙汰やみとなった。

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段成式「酉陽雑俎」巻七より。こういうすごい薬があると仮病も通用しないかも。

 

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