平成24年2月13日(月)  目次へ  前回に戻る

 

本日は13日の月曜日です。悪いこと起こらないといいですね。

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康熙十一年(1672)八月二十六日の夜のことだそうでございます。

この日、浙江の太倉、嘉定、宝山一帯では、

大雷電。

大いに雷電せり。

たいへんな雷鳴と稲光があった。

「雷」がカミナリの音、「電」がカミナリの光であります。

しかし、この雷電は雨を伴わなかった。晴れ渡った空に、雷電があったのである。

「おかしな天気じゃのう・・・」

と夜空を見上げたひとびとの目に、不思議なものが見えた。

空中有二灯前導。

空中に二灯の前導するあり。

まず、空に二つの光が浮かびあがり、何かの先導をするかのように移動した。

そのあとから、

中有一緋衣者、乗白龍、甲士数十、亦持鐙随其後。

中に一緋衣者の白龍に乗じるあり、甲士数十、また鐙を持してその後に随う。

二つの光の後を追うて、赤い衣を着た人が白い龍に乗って行き、さらにその後ろによろいかぶとに身を固めた兵士が数十人、騎乗道具である「あぶみ」を持って、付き従って行くのだ。

「な、なんじゃあれは?」

ひとびとは目をこすったが、錯覚の類ではない。

遠近郷民尽見之。

遠近の郷民ことごとくこれを見たり。

村人たちはあるいは近くから、あるいは遠くから、みんなこれを見たのである。

其灯忽高忽低。

その灯、たちまち高く、たちまち低し。

彼らの視界の中で、二つの光は不規則に上下し、それにつれて赤い衣のひと・白い龍・数十人の兵士たち、も上下しながら、やがて遠ざかっていった。

―――さて、翌朝見てみると、

灯光低処、花禾悉壊。

灯光の低処、花禾ことごとく壊せり。

例の二つの光が低く飛んだあたりでは、花も穀物もすべて枯れ果てていた。

ということである。

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光ものが毒ガスか放射線でも噴出したんですかね。「履園叢話」巻十五より。

不思議なように見えますが、これは現代のわれわれの進んだ知識では「UFO」と呼ばれるモノであること、一見にして明らかでしょう。よし、謎は解けた。・・・ただ、UFOには赤い衣の人とか龍とか兵士とかは随わないので、不思議といえば不思議である。

―――それより百五十年ほど後のことでございますが、これは我が朝の文化五年(1808)六月八日の夜のこと、常陸・水戸の

南方に光あり。少しありて音あり。雷に似て雷に異なり。しばしの間、西より東に鳴り、紙障など皆ひゞき、光りあきらかにして人の面も分かるほどなりし。およそ水戸四方数十里の間、皆これをきく。

と、小宮山楓軒「楓軒偶記」巻六に記されてある。

これは上記の康熙十一年の事件に似ているのかも知れぬ。ただし、残念なことに、楓軒は

時に予、江戸小石川の邸にあり、その音を聞くことなかりし。時当(そのとき)、何物なることを知らず。追て考ふるにこれ流星なるべし。

だそうでして、実見していませんでした。実見していれば龍とか緋色の服のひととかについても確認できていたかも知れず、惜しいことである。

 

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