平成23年12月8日(木)  目次へ  前回に戻る

 

まだ木曜日ですわー。

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8世紀のころです。潮州の悪溪潭とよばれる深い淵のほとり。岸辺に、七八人の屈強の若者たち――これは州府付きの兵卒たちと見てとれた――に取り囲まれて、

メエメエ〜

と鳴く子羊と、

ブヒブヒ〜

と鳴く子ブタが、それぞれ四本の脚を縄で縛られて、地に横倒しにされておりました。

そのかたわらには、立派なヒゲを生やした中年の、エラそうなおっさんが床几にどっかと座っておりまして、このおっさんが、兵卒たちに、あごをしゃくって合図した。

すると、

「御意!」

と答えて兵卒の一人がすらりと腰の剣を引き抜き、なれた手つきで、

メーーーーー!

と、ひときわ哀しげに鳴いた子羊の首に突き立てたのだ。

しゅう。

傷口から真っ赤な血を噴き出しながら、子羊はまた哀しげに鳴いたが、兵卒たちは生きたままのその子羊を持ち上げ、岸壁の上から「えいや」と淵に投げ込んだのである。

どぷん。

子羊は水面に血の輪を作りながら、すぐに何物かに引き込まれるかのように水没してしまった。

ブピーーーー!

とこれも一段と哀しげに泣きわめく子ブタちゃん。

兵卒たちは同じように子ブタちゃんの首を剣で刺し、同じように、生きたまま子ブタちゃんも淵に投げ込んだ。

どぷん。

子ブタもまた、血の輪を作り、すぐに水面から消えてしまった。

兵卒の一人が、ヒゲのおっさんに報告する。

「刺史さま、終わりました!」

「よし」

おお、このひとこそ、時の潮州刺史・韓愈(字・退之)であったのだ。

おっさんは、うなずくと床几から立ち上がり、懐から取り出した巻紙を広げ、いましも二匹の哀れなドウブツが引き込まれた淵に向かって、おごそかに文章を読み上げ始めた。

―――この年、この月、この日、潮州刺史・韓愈、ヒツジ一、ブタ一を以てここ悪溪の潭水に投げ入れ、以て鰐魚に与えて食らわしむ。しかして、これ(鰐魚)に告げて、曰く・・・

「鰐魚」(ワニ)は形とかげに似て、水中にあり、人を呑む、という獰猛な生物であります。

―――むかし、古代の聖なる王は、山や沢を整え、網・縄・やす・刀を用いて

除蟲蛇悪物為民害者、駆而出之四海之外。

蟲・蛇・悪物の民害を為す者を除き、駆りてこれを四海の外に出だす。

おまえたち、足のあるものも足のないものもひっくるめて、悪い動物たちが人民に害をなすので、駆逐して世界の果てまで追い出してしまわれたのであった。

だが、その後の王者たちは仁徳が薄かったゆえ、おまえたちを世界の果てまで追い出すことができず、あるいは長江や漢水に、あるいは楚や越などの辺境地帯に、あるいはこの潮州のような海辺の地に、おまえたちを残してしまった。

鰐魚之涵淹卵育于此、亦固其所。

鰐魚のここに涵淹卵育すること、またもとよりその所なり。

ワニよ。おまえたちがこの潮州で卵を産み育て、水につかって成長するのは、一応場所的には問題ないことであったのである。

しかるに・・・・

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途中ですが、今日はここまで。あたまが、いつにないぐらい痛いんですわ。寒くなって、高血圧の血管を寒気が締め付けるので、痛くなっているのでしょう。もう寝ますわ。続きは明日(以降)・・・。ちなみにこれは、韓退之「祭鰐魚文」(「古文辞類纂」巻37所収)

 

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