平成22年7月26日(月)  目次へ  前回に戻る

暑いですね。

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@乾隆癸巳(1773)六月(旧暦)―――あの年の夏も暑かったのう。

浙江・嘉定の片田舎・南翔鎮の西の方の湿原に

忽一夕蛍火団聚、至数十万。

忽ち一夕、蛍火団聚し、数十万に至る。

ある晩、突然、多数のホタルが密集した。その数は数十万とも思われた。

そのホタルの光は、

周囲三四里、望如火城、其光燭天、観者如市。

周囲三四里より望むに火城の如く、その光、天に燭し、観者市の如し。

まわり三四里からこれを見ると、まるで炎の城市のようであり、その光は空高くまで輝いたので、周辺のひとびとが見物に押し寄せ、まるで市が開かれたときのような人出であった。

本当に露店が出て、村はたいへんな賑わいとなったが、

五日後、方滅。

五日後、まさに滅す。

五日後にその光は消えた。

ので、村はまた静けさを取り戻した・・・そうである。

A乾隆己亥(1779)―――この年も暑かったのう。

干将坊(←蘇州城内か)の黄天禽というひとの家で、塩漬けのタマゴ(「醃蛋」(えんたん))を切って皿に盛りつけ晩御飯に出そうとしたところ、

暗中有光如蛍火。

暗中に光の蛍火の如き有り。

暗闇の中に、ホタルの光のようなぼんやりとした光を発した。

下女が驚いて叫び声を上げたため、家人みな集まってきてそれを見たのである。

不思議に思って誰かが

移灯視之、則無有也。

灯を移してこれを視るに、すなわち有る無し。

あかりを持ってきてタマゴのようすをじっくりと見たが、何の変哲も無い。

「なんだ、これは」

「キモチが悪いわね」

と棄ててしまった。

この年、黄天禽夫婦、嫁、二人の孫相次いで死んでしまい、息子は既に死んでいたから、天禽の家は滅亡したのであった。

しかしながらわし(←原著者)の考うるに、天禽の家はもともと滅亡する運命だったのであり、

未必此為祟也。

いまだ必ずしもこの祟を為すにはあらざるなり。

必ずしも、このタマゴが祟ったのだ、というわけではないのだと思うのである。

なぜなら、沈括「夢渓筆談」

塩鴨卵通明如玉、屋中尽明。

塩鴨卵、通明なること玉の如く、屋中ことごとく明らかなり。

塩漬けのカモのタマゴが、透き通って光を放つこと不思議なタマのようになり、家の中をすみずみまで照らし出した・・・。

云々という記述があり、いにしえより皆無のことではないからである。

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以上、清・銭泳「履園叢話」巻十四より。

文中に名著「夢渓筆談」からの引用がありましたが、今詳しく出典を確認するヒマがないので、ヒマなひとは「平凡社東洋文庫」の「夢渓筆談」でチェックしておいてください。

えー、@の例は暑くて湿地帯に有機ガスか何かが出てホタルの異常発生になったのであろう、Aの例はあんまり暑いので卵中の燐分が発光したか何かして云々・・・と考えるのも暑くてイヤになってきたので、暑いといろいろ起こるようですので、気をつけねばならん、ということです、と理解して今日はもう終わり。

 

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