平成21年12月13日(日)  目次へ  前回に戻る

もうおしまいかも知れませんねえ。

○第一話。

楚の国のひと、サルを捕らえたのでこれを殺し、大鍋に入れて煮込んだ。

ぐつぐつとナベは煮立った。

・・・十分煮込んでサルのスープができました。

そのひとは隣人たちを招待して、そのスープを振舞った。

「さあ、すばらしいスープができました。お肉も少しづつ椀に盛り、香り草を載せました」

そして、

以為狗羹也。

以て狗羹なりと為す。

これはイヌのスープだ、と言った。

隣人たちは、

甘之。

これを甘しとす。

「これは美味い」と称賛した。

ウシ、ブタ、ヒツジ、イヌ、ニワトリが当時のご馳走でした。牛・豚・羊は士以上の支配者階級の高級な食べものですから、庶人にとってはイヌ肉が最も普通の肉であった。

みなが食べ終えた後で、主人は、「実は・・・」

其猴也。

それ猴なり。

「これはサルの肉のスープでした」

と告げたのであった。

楚の国にはサルを食べる風習は無かった。

「うひゃあ」「気持ち悪い」

ひとびとは、

据地而吐之、尽瀉其食。

地に据りてこれを吐き、その食をことごとく瀉す。

地面に這いつくばって吐瀉し、食べたものをすべて吐き出してしまった。

さてさて、

此未始知味者也。

これ、いまだはじめより味を知らざるものなり。

最初「美味い」と言っていたが、このひとたちは実は味なんてわからなかったんじゃないのか。

○第二話

邯鄲の街からやってきたというひとが、邯鄲で流行りの新しい歌曲を歌い、

託之李奇。

これを李奇に託す。

「この歌は、かの李奇さまが作曲されたのだ」

と宣伝した。李奇は有名な歌い手である。

「確かにいい歌だ」

ひとびとは争って邯鄲から来たひとに歌を習い、誰も彼もが宴席でその歌曲を歌った。

ところが、邯鄲から別のひとがやってきて、

「その歌は確かに流行っているが、李奇の作曲ではないよ」

と教えたところ、

皆棄其曲。

みなその曲を棄つ。

誰もその歌を歌わなくなった。

さてさて、

此未始知音者也。

これ、いまだはじめより音を知らざるものなり。

最初「いい歌だ」と言っていたが、このひとたちは実は音楽なんてわからなかったんじゃないのか。

○第三話

ある村の有力者が一抱えもある大きな石を拾った。

何の変哲も無いただの石だったが、あるひとがそれを見て、

「それは玉璞ですよ」

と教えた。「玉璞」(ギョクハク)は「あらたま」。玉の原石で、これを磨いて玉を得る。

有力者はたいへん喜び、

以為宝而蔵之。

以て宝と為してこれを蔵す。

「すばらしい宝物を得た」と喜んで、大切にしまいこんだ。

ある客人があった際に、

「すばらしい宝物をお見せしましょう」

と言うて「玉璞」を見せたところ、そのひとは、

以為石也。

以て石と為す。

「申し訳ないが、それは誰が見てもただの石ですよ」

と告げた。

有力者は石を棄てた。

さてさて、

此未始知玉者也。

これ、いまだはじめより玉を知らざるものなり。

最初「すばらしい宝物だ」と言っていたが、このひとは実は玉のことなんて何も知らなかったんじゃないのか。

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いずれも「淮南子」修務訓より。

とりあえずみなさん、流れてくる情報はもうちょっと疑った方がいいんじゃないですか、と思いますけどね。多くのことが取り返しがつかないかも知れませんが・・・。もう少しまじめにやってもらいたいものである。

 

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