平成21年12月10日(木)  目次へ  前回に戻る

わしよりは美味かろう。

黄鼠というドウブツがおります。チュウゴク北方の太原、大同などの沙漠の地に棲むという。

晴れて暖かな日にはこの黄鼠、巣穴より出て後ろ足で立ち、

見人則交其前足、拱而如揖、乃竄入穴。

人を見ればその前足を交わらせ、拱して揖するが如くし、すなわち穴に竄入す。

遠くに人間の姿を見ると、前足を胸の前で交差させ、まるで人間が両手を握り合わせて左右に動かす挨拶である拱手礼をするように動かし、それから即座に巣穴に逃げ込んで行く。

ために礼鼠とか拱鼠ともいわれる愛すべきドウブツである。

大きさは大きなネズミといったところで、色は黄色く、足は短いが走るのは速く、きわめてまるとまると肥っている。巣穴に棲んでいるが、その穴の奥にはまるでベッドのような平坦な場所を作り、そこに雌雄ひとつがいで生活している。秋の間に

豆、栗、草木之実

を巣穴の中に設けた小さな貯蔵用の穴に貯えて冬を過す。

毛皮はかわごろもの衿にするのに適しているので、北方のひとたちはこの黄鼠を捕らえようとするのだが、上述のとおり人間の姿を見ると巣穴に逃げ隠れてしまうのでなかなか捕らえるのは難しい。

そこでひとびとは、

以水灌穴。

水を以て穴に灌ぐ。

巣穴に水をどんどん注ぎ込む。

すると、黄鼠はやがて穴から飛び出してくるので、これを捕らえるのだ。

しかしながら中には入り口より高いところまで巣穴を拡げておき、水を注ぎ込まれてもそこに難を避けるものもおり、一筋縄で行かぬらしい。

このような印象的なドウブツなのであるが、チュウゴクでは、やはりこれも食べるものなのである。

味極肥美、如豚子而脆。

味は極めて肥美にして豚子の如く、脆なり。

味はたいへんねっとりとして美味しい。子豚みたいにとろける。

そうである。

以上は明・東壁先生・李時珍「本草綱目」より。

ところで、今晩、寝る前にごろんごろんと清の顧仲「養小録」という料理書を読んでいたら、その料理法が出ていたので、ここに記しておきますので、黄鼠が手に入ったひとは参考にして食べてみてください。

@    黄鼠を手に入れたら、まずは、毛のついたそのままで

泔浸一二日。

泔浸すること一二日。

「泔」(カン)は、「米のとぎ汁」。和語では「しろじる」ともいう。

米のとぎ汁の中に一〜二日、漬け込んでおいてください。

A    漬け込んだ黄鼠を取り出して籠に入れ、

脊向底蒸。如蒸饅頭許時。

脊を底に向けて蒸す。饅頭を蒸すばかりの時の如し。

背中の側を下にして蒸してください。蒸す時間はまんじゅうを蒸すのと同じぐらいです。

このとき、火の強さは、むしろ緩くして(弱火にして)急にするなかれ、と書かれています。

B    蒸し終えたら取り出しまして、

去毛刷極浄。

毛を去り刷して極めて浄くせよ。

毛を取り去ってください。刷り上げて、できるだけつるつるにしていただくとよろしい。

C    続いて、

毎切作八九塊。

毎切して八九塊に作せ。

一匹あたり八から九のかたまりになるように切り分けてください。

あまり細かくしますと、骨が砕けてしまいます。後で骨と取り分けて食べるときに、骨が砕けていると取り分けにくくなるので、注意してください。

D    それぞれのかたまりに山椒と塩をまぶし、

麺裡再蒸。

麺裡に再蒸せよ。

麺(小麦粉を練ったもの)の中に包んで、再び蒸してください。

このとき、火は緩やか(弱火)にして、久しく(じっくりと)蒸してくださいね。

これを取り出してお食べください。

冷えたら何度も蒸し直して暖かくして食べればよろしいのですが、

一次蒸熟為妙、多次則油走而味淡矣。

一次の蒸熟を妙と為し、多次なれば油走して味淡なり。

一回だけ蒸したものが一番美味しいです。何度も蒸すと、肉の中の脂が溶け出てしまい、味がうすくなってしまいますので注意してください。

以上。

作る機会のあるひとがあったらわたくしにもお裾分けいただけると幸いです。

再び「本草綱目」によれば、

以為珍饌。

以て珍饌と為す。

たいへん珍重される食べ物である。

そうで、遼、金、元の三代にわたって、草原のひとびとの間では、

千里贈遺。

千里に贈遺さる。

千里の遠くまで遣わし物として届けられた。

という。

なお、黄鼠は「てん」である、ともいうが、食べてみたことがないのでわかりません。

 

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