平成21年 9月21日(月)  目次へ  前回に戻る

誠意伯・劉伯温(名・基)といえば明の太祖・朱元章をして「朕の張子房」(張子房は名を良といい、漢高祖の参謀としてよくその覇業を助けた)と言わしめた明の創業の功臣の一人です(←死に方カッコイイ)が、その劉伯温は元の時代に沈淪して田野に潜んでいたこともあって、変なことをいろいろ知っているひとであった。

○油籠(油を塗り目を詰めて中のものが漏れ出さないようにした籠)が漏れるようになったときはどうするか。

剥穿山甲裏面肉投入、自至漏処補住。

穿山甲の裏面肉を剥ぎて投入せば、自ずから漏処に至りて補い住(とど)まらん。

「穿山甲」はそのまま音読みすればいいのでして「センザンコウ」のこと。

センザンコウの甲羅の裏側の肉を剥ぎ取って、カゴの中に投げ込んでおけばよろしい。この肉はおのずと漏れのあるところにたどりついてそこに止まり、中から塞いでしまうのである。

と言っております。(彼の@「多能鄙事」という著書に書いてある、と李時珍が言うている)

明の大博物学者・東璧先生・李時珍はまた、A「永州記」という書を引いていうに、

此物(穿山甲)不可于堤于岸上殺之。

この物、堤におけると岸上におけると、これを殺すべからざるなり。

センザンコウは、堤防や岸の上で殺してはいけない。

なぜなら、

血入土、則堤岸滲漏。

血、土に入ればすなわち堤・岸滲漏す。

センザンコウの血が土の中に入ると、浸みこんで、その通り抜けた後が穴になってそこから堤や岸に水漏れを起こすからである。

ほんとうであろうか。Aはよく考えてみると怪しいような気が・・・。いや、よく考えなくても@も怪しい気が・・・。

するのですが、李時珍は、

「センザンコウはその字のとおり、B「山を穿つ」すなわち山に穴をあけてそこに暮らしているのである。

山可使穿、堤可使漏、而又能至滲処、其性之走竄可知矣。

山穿たしむべく、堤漏れしむべく、しかしてまたよく滲処に至る、その性の走竄すること知るべきなり。

Bにあるように山に穴を開けることができ、Aにあるように(その血は)堤に水漏れを起こさせ、@にあるように(その肉は)滲み出るところにたどりつくことができる。穴のあるところに入り込もうとする性質を持っていることがよくわかるであろう。」

と言いまして、@〜Bすべて信用した上、

「故に、

婦人食了乳長流。

婦人が食すれば乳長流す。

女性がセンザンコウを食べると、母乳がどんどん出るようになる。

ので、産後の女性の特効薬なのである」

としているのである。(「本草綱目」巻四十三

ほんとうかどうか。

誰か実験してみてください。

ところで、センザンコウは全身うろこで覆われているので、鱗類といいまして、魚や龍蛇の一種である、とされて「鯪鯉」(りょうり)とも呼ばれていました。といいますか正確には、「鯪鯉」という龍蛇の一種で四本足のあるやつの甲羅が「穿山甲」だ、という関係です。

「鯪鯉」は「陵(おか)の鯉」すなわち「陸上に棲む魚」(この場合の「鯉」はフナなどを含む淡水魚類の総称と考えられたい)のこと。「オカゴヒ」の訓もある(「大言海」)。

むかしのひとは哺乳類だと知らず、ヘビやウオの一種だとしていたのですな。われわれはむかしに生まれずゲンダイの進んだ社会に生まれましたので、そのような間違った考えに捉われずにすんでよかったなあ。

 

表紙へ  次へ