令和2年6月12日(金)  目次へ  前回に戻る

梅雨に入り、ついに本格的に吊るされるテルテルであった。みなさん、真似してはいけませんよ。

もうダメだ・・・。だが日曜の夜までは現世にいようかなー。

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昨日の続きです。

春秋時代、浮提の国から周王国に派遣されてきた二人の魔術師、黄金の壺の中の黒い液体が尽きてしまったところ・・・、

なんと!

二人は目を見合わせてにこりと微笑みあうと、ともに短刀を手にして、

ぐさり。

二人刳心瀝血以代墨焉。

二人、心を刳りて血を瀝(そそ)ぎ、以て墨に代えたり。

二人は、心臓のところに短刀を突き刺し、ぐりぐり、と一えぐり、ぷしゅうと噴き出す血潮を壺に注ぎこんで、墨の代わりにしはじめた。

みなさん、真似をしてはいけませんよ。

続いて、

逓鑽脳骨、取髄代為膏燭。

逓(たが)いに脳骨を鑽(き)り、髄を取りて代えて膏燭と為す。

お互いの頭蓋骨に穴を開けて、そこから脳髄を取り出して、燭台の油に継ぎ足した。

燭台はまるで真昼の陽のように燦燦たる光を発しはじめ、彼らはその光の下で、徹夜で文字を写したのだ。

足りなくなると、また血と脳髄を取り出して、墨と膏を足す。

かくして、

及髄血皆竭探懐中玉管、中有丹薬之屑。

髄血みな竭きるに及びて懐中の玉管を探るに、中に丹薬の屑有り。

彼らの頭蓋骨から脳髄のほとんど、心臓から血のすべて、が絞り出されると、二人は今度はふところの中から何やら取り出した。それは丸薬を削いだ薄片にしたものである。

二人は目を見かわすと、するすると着物を脱いで全裸になり、

以塗其身。

以てその身に塗る。

おたがいの体にその薄片をこすりつけあった。

「あああ」「ううううん」

すると、

骨乃如故。

骨すなわち故の如し。

頭蓋骨はもとのようにくっつき、胸をえぐった穴も塞がれてしまった。

―――さてさて、その後、

老子曰更除其繁紊。存五千言。

老子曰く、「更にその繁紊を除かん」と。五千言を存す。

老子はおっしゃった。

「「道徳経」は(十万字あったが)余計な表現や乱れた文脈を削除整理しますのじゃ」

こうして、今に伝わる「老子」が完成した。(魔術師たちが書き記して)遺されたのは五千文字である。

それから

及金経成工畢、二人亦不知所在。

金経の工の畢(おわ)るを成すに及び、二人また所在を知らず。

黄金経典の製作を最後まで終えたあと、二人ともどこに行ったか、それからその姿を見た者は誰もおらぬ。

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「拾遺記」より。脳みそは空っぽになったままのようですが大丈夫かな? でも「老子」が五千字に減らしてもらえたので、何とか読めるようになりました。よかったですね。

 

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