令和2年2月15日(土)  目次へ  前回に戻る

「寝ているだけでいい夢みていい目に遇うとは怪しからんでぴよ」「突っついて起こしてやるでぴよ」

「人のふりみて我がふり直せ」と言いますが、人のふりは「あいつはダメだなあ」と嗤えたりしていいのですが、鏡で自分を見て「これはダメだ」と思うときには、笑ったり直そうとしたりする気力はないのがふつうです。

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鏡が好きなひともいるようで、

余三十年来見古鏡極多。而各有不同。

余三十年来、古鏡を見ること極めて多し。しかしておのおの不同あり。

わしはもう三十年来、古い鏡をあちこちで極めて多く見ておる。それにしても一つとして同じものはない。

その鏡銘を並べてみても、

その1

黄帝治鏡于西方、 黄帝鏡を西方に治め、

青龍白虎辟不羊、 青龍白虎、不祥を避け、

朱鳥玄武調陰陽、 朱鳥玄武、陰陽を調え、

子孫備具居中央、 子孫備具して中央に居り、

為保長生富貴昌。 ために長生を保ち、富貴昌(さか)んなれ。

はるか古代、黄帝が(この)鏡を西の国で作った。

(裏に鋳出された)東をつかさどる青い竜、西をつかさどる白い虎が、不吉なことを避けさせ、

南をつかさどる赤い鳥、北をつかさどる黒い亀が、陰と陽とを釣り合わせる。

かくして我が子孫は鏡を持って中央の国にいて、

長生きせよ。財産と身分を得て、永久に幸せであれ。

その2

錬治同錫清而明、 銅錫を錬治して清にして明、

以之為鏡宜文章。 これを以て鏡と為して文章に宜(よろ)し。

光照天下達四方、 光は天下を照らして四方に達し、

長保二親世世昌。 長く二親を保ちて世世昌(さか)んなれ。

 銅と錫をどろんどろんに溶かして固めて、清らかで明るい塊を作り、

 これを磨いて鏡にすれば、目もあやなる模様がふさわしい。

 鏡の光は天下を照らして四方に達し、

 (そのような名声を得て)長く両親を養い、代々幸せであれ。

その3

十言之紀従竟始、 十言の紀は鏡より始まり、

調錬同華去悪滓。 銅華を調錬して悪滓を去る。

刻竟均好置孫子、 鏡を刻みて均しく好しく孫子に置き、

長保二親楽毋已。 長く二親を保ちて楽しきこと已むなからん。

寿同金石天王母、 寿は金石と同じ、天王母(のごとく)、

富如江海東西市。 富は江海のごとし、東西市(のごとからん)。

 十の吉語を記録するのは、鏡の銘から始まったという。

 銅の花の部分をどろどろにして固め直し、悪いカスの部分を取り去って、

 鏡にはうまく均衡をとって文字を刻んで子孫に伝えよう、

 とこしえにおまえたちの両親を養い、楽しみが尽きないように。

 寿命は金属や石のように長いという西王母さまのようであれ。

 財産は大河や海のように多いという東西の市場のようであれ。

その4

青蓋作鏡四夷服、 青蓋鏡を作れば四夷服し、

多賀国家人民息。 多く国家を賀して人民息う。

胡虜殄滅天下服、 胡虜殄滅(てんめつ)して天下服し、

風雨時節五穀熟、 風雨時節五穀熟し、

長保二親得天力兮。長く二親を保ちて天力を得ん。兮(けい)。

 青銅に覆われた鏡を作れば、(その威力で)四方の野蛮人は降伏し、

 国家にとっていいことばかりで、人民は休息できるであろう。

 えびすどもは殺されつくして天下は心服し、

 風雨は時節に応じて、五穀は実り、

 とこしえに両親を養って、おまえたちは天の力をみなぎらせ。えい!。

その5

人鑑以形、 人は形を以て鑑とするも、

我鑑以心。 我は心を以て鑑とせん。

暗室屋漏、 暗室にも屋漏にも

上帝臨汝。 上帝は汝に臨めり。

 みなさんは姿かたちを映し出して整えるが、

 わしは心を映して整えているのじゃ。

 真っ暗な部屋でも、家の片隅でも、

 (誰も見てないところでこそ)天の主宰神(上帝)はおまえの前にいるのじゃ!

その6

得月之光。 月の光を得ん。

長毋相忘。 長く相忘るることなかれ。

 月光を集める鏡です。

 いつまでも(わたしを)忘れないでね。

などなど。

銘文を読んでいると、

諸鏡恐是唐宋人翻沙、未必尽漢鏡也。

諸鏡おそらくはこれ唐宋人の翻沙せしならん、いまだ必ずしもことごとくは漢鏡ならず。

これらの鏡は、おそらく唐とか宋の時代のひとが(古い銅鏡を)作り直したものであろう。すべてが漢の時代のもの、とは思えない。

そうです。

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「履園叢話二「閲古」より。おめでたい言葉が多くてうれしいです。それにしても、モノが好きなひとはしようがないですね。「怪しからん」と言われなくても自分でもわかっているけど集めるのだから止めようがないのである。

 

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