平成30年12月12日(水)  目次へ  前回に戻る

弱肉強食である。弱い者の食べ物など、どんどんかすめ取られてしまう。半分にされてしまうかも知れないのだ!

今日は職場の忘年会のその一。弱肉ではないのに、かなり食ってしまった!

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食われてしまうよりいいかも知れません。

明の時代のことでございますが、長興という村の長(里長)に某という者がおりました。この男、たいへん欲深であった。

仮以逋税、索里人褚四金。

逋税を仮り以て、里人・褚四に金を索む。

「逋」(ほ)は「逃げる」、「逋税」は「税金逃れ」のことです。

税金を払っていない、という真実でない理由で、村人の褚四という者から金をせびり取ろうとした。

「なに言ってんだね?」

褚四はとりあわず、

不与。

与えず。

おカネを与えなかった。

怒った某は鉄の鎖を持ち出して来て、、

先以鉄索自鎖其頸、因鎖褚四、将以赴官。

まず鉄索を以て自らその頸を鎖し、因りて褚四を鎖して、将(ひき)いて以て官に赴く。

まず鎖の一方を自分の首に巻き付け、その鎖で褚四を縛り上げて、県庁に引き立てて行った。

ところが、

途遇虎、先噛里長下截。

途に虎に遇い、まず里長の下截を噛。

途中で、トラと遭遇。トラはとびかかってきて、まずは里長の下半身にかじりついて、腰から下を食ってしまった。

「うぎゃああああああ」

上截猶連褚四。

上截なお褚四に連なれり。

まだ上半身は褚四に鉄の鎖でつながったままである。

その上半身は生きているらしく、すごい目で褚四を睨み、両腕を伸ばして、助けを求めてくる。

そのとき、

忽山後又一虎来争食、両虎相搏。

忽ち、山後よりまた一虎来たりて食を争い、両虎相搏てり。

今度は山の裏側から、またもう一頭のトラが現れて来て、獲物を争って、二頭のトラで戦い始めた。

「むむむ・・・」

褚乗機捧半里長奔、訴之令。

褚、機に乗じて半里長を捧げて奔り、これを令に訴う。

褚四はそのスキに、半分になった里長を持ち上げて逃げ出し、県庁の役所に駆けこんで、県令に一部始終を申し上げた。

上半身だけになっていた里長は、県庁に運び込まれたときはまだ両目を開いて何かを睨み据えていたが、やがて白目を剥いて事切れた。

県令が収税の帳簿を持って来させると、褚四は確かにすでに納税を澄ませていることが判明した。

遂釈之。

遂にこれを釈す。

結論として褚四は釈放されたのである。

一方、半分になった里長の方は親族に報せて取りに来させたのであった。

なんとまあ、

無頼索人、未得金而身先斃、報亦神矣。

無頼の人に索む、いまだ金を得ずして身まず斃る、報また神なるかな。

悪党が人から捲き上げようとして、金を得る前に自分の身体が倒れてしまったのだ。報いの来たること、やはり神秘的だなあ。

よかったですねー。

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明・劉忭等「続耳譚」巻三より。何が神秘的なのか。半分になった、というのが神秘なのでしょうか。

 

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