平成30年5月20日(日)  目次へ  前回に戻る

「コケ―! ニワトリは意外と役に立つのでコケ!」「ピヨ―」「ピヨ―」「ピヨ―」と追随していく者たち。

毎日ふつうぐらいしか食べていないのに、なぜこんなに苦しく、かつ体重も増えてくるのか。

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清の時代には、南方の医師(とりあえずこう言っておきますが、祈祷師の一種というべきかも知れません)たちの間に「辰州法」という治療術が伝えられておった。

わたし(←肝冷斎にあらず、湯用中というひとである)がコドモだったころ、県学の前を通り過ぎたあたりに、

見有操此術者爲人治病、皆応手癒。

この術を操る者の人のために病を治する有りて、みな応手に癒ゆるを見たり。

この治療術を行う医師が、ひとびとのために病を治療していて、いつもその術を施すやたちまち治癒していくのを見ていたものである。

ある日のこと、

両人扶一媼至。

両人の一媼を扶けて至る。

二人のひとが一人のばばさんを支えながらやってきた。

このばばあ、

腹大如鼓。

腹、大なること鼓のごとし。

腹が膨れて、太鼓のようになってしまっていたのだ。

わーい、デブばばあだ。やーい、やーい。

しかし、ただのでぶではないらしい。医師は病状を聞いて深刻な顔をして、

令解衣、視之、臍凸出寸許、叩之槖槖作石声。

解衣せしめてこれを視るに、臍の凸出すること寸許(ばか)り、これを叩くに槖槖(たくたく)として石声を作す。

すぐに服を脱がせて腹を診察したところ、ヘソが一寸ばかりも飛び出しており、そこを叩くと「こんこん」と石のような音を立てた。

医師は言った、

吁、危矣。姑試爲之。

吁(う)、危ういかな。しばらくこれを試み為さん。

「うわあ、これは危険ですぞ。ダメかもわからんけどちょっとこれで調べてみましょう」

助手の童子に向かって、

「あいつを連れて来い」

と命じた。

「あいつでちゅね。わかりまちたー」

連れて来たのは一羽の雄鶏であった。

「コケコケ」

と騒いでいるのを助手に取り押さえさせておいて、

以鉄杖挿入其口、穿腹抜出、視杖上無点血。

鉄杖を以てその口に挿入し、腹を穿ちて抜き出すに、杖上に点血無きを視る。

一方の先の尖った鉄の棒をそのニワトリのくちばしに突っ込んで、ニワトリにばばあの腹をつつかせた。鉄の棒はばばあの腹にずぶずぶと入り込んだが、これを抜き出して、仔細に見たところ、血がついていない。

医師は笑って言った。

此尚可治。

これなお治すべし。

「よし、まだなんとか治りそうじゃぞ」

ただちに助手に命じて、

取一空s来、以厚紙糊其口、向腹戟手書符、口中喃喃誦呪。即聞腹中漉漉有声。

一空sを取りて来させ、厚紙を以てその口に糊し、腹に向かいて戟手して符を書し、口中に喃喃として呪を誦す。即ち腹中に漉漉(ろくろく)として声有るを聞けり。

空き樽を一つ取って来させ、厚紙をかぶせて糊をつけて取れないようにして、(これを患者の腹の下に置くと)ばばあの腹に向かって片手で拝むようにした後、口でもごもごと呪文を唱えながら、腹に何やら符号を描いた。すると、すぐに腹の中で「ごろごろ」と音が聞こえはじめたのである。

しばらくすると、

腹脹漸減、須臾遂如平人。

腹の脹れようやく減じ、須臾にして遂に平人の如し。

ふくれていた腹がだんだんへっこみだし、みるみるうちに普通のひとみたいになってしまった。

「もう大丈夫ですぞ」

ばばあは、けろっとして起き上がった。

医師が患者の下から樽を取り出し、

破s傾之、則皆碧水也。

sを破りてこれを傾くるに、すなわちみな碧水なり。

その口の厚紙を破って傾けると、中から緑色の液体がどろどろと出てきた。

「辰州法」とはおよそこのようなもので、医術と言うべき否か甚だ怪しいものだが、必ず治るのである。あるときはわたしは、大きなできものを治すのに、医師がクギを柱に差し込んでおいて、患者のできものに対して何やら呪文を唱えると、クギが自然に抜けて、同時にできものも萎んでしまったのを見た。

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「翼駉稗編」巻三より。おいらも治してほしいなあ。しかし「辰州法」の絶えた今、この重い体を抱えて明日も行かねばならないのだ。

 

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