平成30年4月23日(月)  目次へ  前回に戻る

南島地方に伝わる悲しいお話をするのサアー。

ツラい一週間始まった。今日のところはまだあまりツラくなかったが。一週間、できるだけ楽しく暮らすために、今日は南の島に古くから伝わる「笑い話」でもします。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

太古之世、宮古伊良部邑有一悪婦者、養育二男、兄出先室、弟出此婦。

太古の世、宮古伊良部邑に一悪婦者有り、二男を養育するに、兄は先室より出、弟はこの婦より出づ。

おおむかしのことですが、宮古の伊良部島に、悪いおんながいたのだそうでございます。このおんな、二人の子どもを育てていましたが、兄の方は前の奥さんに生まれた子で、弟の方がこのおんなの産んだ子でございましたそうな。

ある日のこと、

婦抱二男携到通池而置兄于池畔、婦懐其弟、而仮眠於此。要俟兄睡去以墜于池中。

婦、二男を抱きて通池に携え到り、兄を池畔に置き、婦はその弟を懐きてここに仮眠す。兄の睡去するを俟ちて以て池中に墜とさんことを要むるなり。

「通池」は下地島にある「とおりいけ」のことです。この池は底が海に通じているのだかなんだかで、淡水なのに水面が上がったり下がったりするのだ、という伝承があった・・・ような気がします。なにしろずいぶん昔に行ったきりなので、わしももう忘れてしまいましたわい。

おんなは、二人の子どもを抱いて「通り池」のところまで行った。そして、兄を池のほとりに下ろし、おんなは弟の方を抱いたまま、ここで昼寝することにした。実は、兄の方が眠りに着くのを待って、池の中に落としてコロしてしまおうという計画であった。

ところが、

婦先睡去。

婦、先に睡去せり。

おんなの方が先に眠ってしまった。

ぶうすか、すう。ぶうすか、すう。

兄はこの様子を見て、

密搬弟他処、換入母之懐、以爲睡眠。

ひそかに弟を他処に搬(はこ)び、換わりて母の懐に入りて、以て睡眠を為せり。

そっと起きだすと弟を(池のほとりの)別のところに運んで、かわりに自分が継母のふところに入って眠ってしまった。

しばらくすると、おんなが起きました。

そして、池のほとりに行きまして、

「おほほ、よく寝ているわね」

と言いながら、

以其弟誤為其兄、擲入池中。

その弟を以て誤まちてその兄と為し、池の中に擲げ入れたり。

弟の方を兄の方だと誤認して、持ち上げると、池の中に放り込んでしまった。

どぶん。

「やったわ。おほほ、おほほ」

おんなは、

慌忙抱兄帰家。

慌忙に兄を抱きて家に帰れり。

大あわてで、兄の方の子を抱いて家に帰った。

家に帰って

熟然看之、非其子也。

熟然としてこれを看るに、その子にあらざるなり。

つらつらとみてみると、連れて帰ってきたのは自分の子ではない方だった。

「・・・ということは・・・」

自此之後、昼夜哭慟。世上之人、為天悪報以之為笑。

これよりの後、昼夜哭慟す。世上の人、天の悪報と為し、これを以て笑いを為せり。

それからはそのおんなは昼も夜も泣き歎いて暮らした。ひとびとは、「おてんとさまが悪に報いなすったのサアー」と言って、このことを笑いのタネにした。

のだそうでございます。

わはははは。わはははははは。わははははははははは。

・・・・・・・・・・・・・・・

「遺老説伝」より。「笑い話」だと思ったのに、何にも面白くなくて、笑いごとではない悲惨な話であった。騙されました。ひどい。明日から実人生もツラいというのに。

 

次へ