平成30年2月18日(日)  目次へ  前回に戻る

平穏とは何かを教えてやるでホッホー。ニンゲンというものに関わらないこと、でホッホー。

日曜日の夜が更ける・・・。絶望である。ぶー。心が荒んできたぜ。まるでニンゲンどものように。

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明の隆慶六年(1572)、もとは医師で、文字に詳しいことから郡の法官に取り立てられていた盛某が、官を辞めて郷里に還ってきた。

官にある間それほど欲を尽したわけではないが、それでもそこそこの金品と、あとは何やら箱に荷造りしたものを持って帰ってきて、郷里のひとびとは何かの謝礼に書画や骨董の類を手に入れてきたのであろうと、妬みがてらにウワサしていた。

ところが、この盛氏の家で、次々と不思議なことが起こり始めたのである。

盛氏が帰郷して間もないころ、

初有犬、自外銜一死狐而入、置之地、狐忽躍起、犬亦人立、与之相搏。

初め犬有りて、外より一死狐を銜えて入り、これを地に置くに、狐たちまち躍起し、犬また人立し、これと相搏(う)つ。

まず、イヌが、外から死んだキツネをくわえて入ってきて、これを地面に置いた。すると、キツネが突然立ち上がったのである。イヌも二本足で立ち上がり、二匹で殴り合いを始めた。

家人撃逐之、即不見。

家人これを撃逐するに、すなわち見えず。

家人らがこれを追い払ったところ、あっという間に見えなくなった。

見えなくなる直前、家人らの方を向いて、二匹そろって「にやり」と笑った―――。

これが皮切りであった。

従此、妖変百出。

これより、妖変百出す。

これ以降、あやしいことが数限りなく起こったのである。

器案互相撃撞、床席自移。

器・案たがいに相撃撞し、床・席おのずから移る。

器具と机がお互いにぶつかりあって音を立てたり、ベッドや椅子が勝手に動き回る。

というポルターガイスト現象は毎日のように発生し、

有青衣女在室、忽鑚於榻下、査不可尋。一男子着単衣、往来廡間、俄変成大猪、瞥然遂滅。

青衣の女室に在りて、忽ち榻の下に鑚し、査するも尋ぬるべからざる有り。一男子、単衣を着し、廡間を往来するに、俄かに変じて大猪と成り、瞥然としてついに滅す。

青い服の女が部屋に立っているのが見えたが、突然女はベッドの下にきりもみのように突っ込み、探してみても姿かたちが見えなくなっていたとか、単衣をまとっただけの男が縁側の前をあちらこちらと往復していたかと思うと、突然に巨大なブタに変じて、じろりとこちらを見たかと思うと消えてしまった。

というのもあった。

諸婦嘗夜坐、見窗外立異物如人。長丈許、皆奔避、怪入、挙手撼燈、其影蔽一屋。

諸婦らかつて夜坐するに、窗外に異物の人の如きもの立つを見る。長丈許にて、皆奔避するに、怪入り、手を挙げて燈を撼(ゆる)がせば、その影一屋を蔽えり。

ある晩、親族の女どもが集まっていたところ、窓の外になにやら変なものが立っていた。人間のようであったが、よく見るとその背丈は三メートルぐらいあり、女どもは

ぎゃ――――――――!!!!!!!!

と叫んで逃げ回ったが、その間にそのバケモノは部屋に入ってきて、長い手を延ばして燈火を揺らしたところ、その手の影は家中に広がったのであった。

五月五日の日、どこかからブタの頭が贈られてきた。知合いからの付け届けだろうと思って、あとで料理するためにこれを台の上に置いておいたところ、

連作声長鳴、剖為四懸之、鳴如故。又有饋齋饅頭者、方持之、内有声如鬼。

声を連作して長鳴し、剖きてこれを四懸に為すに、鳴くこと故の如し。また、斎饅頭を饋(おく)る者有るに、まさにこれを持すれば、内に声有りて鬼の如し。

ぶ―――! ぶ―――――!

と続けざまに長く鳴いた。そこで四つに斬り裂いて壁に掛けたのに、やはり鳴いていた。

さらに、精進まんじゅうを贈ってくれたひとがあったが、これを手に持ったところ、中から「ひひひひひ・・・」とバケモノじみた声が聞こえた。

こんなことが数か月続き、いろんな祈祷をしてみたが効果が無い。そこで田舎の家はそのままにして、町なかに移住したところ、

稍稍止。

稍稍止めり。

少しは怪事が減った。

・・・と思っていたのですが、

後盛三男連死、家倶皆患病、死喪狼藉。

後、盛と三男連死し、家ともにみな病に患し、死喪狼藉たり。

その後、盛某とその三人の息子が次々に亡くなり、一家中が病気に罹って、葬儀と喪中が続くありさまとなった。

男子がすべて尽きてからようやく怪異は治まったのである。

ほとんど廃屋になった盛氏の田舎の家を近所の者たちが取り片づけたところ、荷ほどきもされない荷物がたくさん出てきた。

開いてみると、

携獄中刑具。

獄中の刑具を携えたるなり。

牢獄で拷問に使った道具を一そろい、持って帰ってきていたのである。

盛氏は法官をしているとき、

有数囚死、不以理。

しばしば囚死するに、理を以てせざる有り。

理由も無く囚人として捕らえたひとびとを、ずいぶん責め殺していたらしい。

しかも、その道具にずいぶん愛着を感じて、囚人たちの血のついたまま、それを持ち帰っていたのだ。

囚憑而為q。

囚憑りてqを為したり。

「その囚人たちの恨みが憑いてきて、祟ったのであろう」

とみな眉を顰めて言い合った。

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明・陸粲「庚已編」巻三より(「続耳譚」巻五所収)。

うわーい、コワいよー。もちろん、妖怪よりも生きたニンゲンの方が。そのニンゲンたちの社会に、明日からまた平日なので出勤しなければならぬ者はわざわいなるかな。おいらはあまりにもコワいので行きませんけど。土日も働いていたひとはごくろうさんでした。でぶー。

 

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