平成29年12月8日(金)  目次へ  前回に戻る

「ひっぱりダコ」になっているうちはまだまだなのである。

一週間終了。よく生き抜いたなあ。

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週末になりましたので、久しぶりで役に立つお話をいたしましょう。これはほんとに勉強になるよ。

陽子居南之沛、老耼西遊於秦。邀於郊、至於梁而遇老子。

陽子居(ようしきょ)は南のかた沛に行き、老耼(ろうたん)は西のかた秦に遊ぶ。郊に邀(むか)え、梁に至りて老子に遇えり。

地名がたくさん出てきますが、どうせ史実ではないので場所の特定を気にしてはいけないでしょう。「陽子居」という名前は「元気くん」のような意味だと思います。老耼は周の賢人で孔子の先生でもあったとされる人物。実在したとは思えませんが、「老子」の著者に比定されたりする。

陽子居というひと(は周の地で賢者の老耼先生に対面した後、ワンランク上の人物となって)、南方の沛の地に戻った。老耼はその間、西の方、秦の地に向かった。(陽子居は)老耼に出会うため城から外に出かけ、梁の町まで来たところで(戻ってきた)老耼先生に出会うことができた。

「先生、お久しぶりです」

ところが

老子中道仰天、而歎曰、始以汝為可教。今不可也。

老子は中道にして天を仰ぎ、而して歎いて曰く、「はじめ汝を以て教うべしと為す。今不可なり」と。

老耼先生は道の途中からもう空を仰いで、嘆いておっしゃった。「以前はおまえには(わしの思想を)教えることができるだろうと思っていたが、今見るとムリなようじゃ」と。

「ぶう」

陽子居は、それ以上何も言わず、旅館まで同行した。

至舎、進盥漱巾櫛、脱屨戸外、膝行而前。

舎に至り、盥漱・巾・櫛を進め、戸外に脱屨し、膝行して前(すす)めり。

旅館に着くと、まずは手を洗うためのたらいを捧げ、ハンカチと櫛を差し出し(て奉仕した後)、入口の外に履き物を脱いで、膝まづいて、膝で老子ににじり寄った。

そして申し上げますには、

向者弟子欲請夫子、夫子行不間、是以不敢。今間矣。請問其故。

向(さき)には弟子、夫子に請わんと欲するも、夫子は行きて間ならず、ここを以て敢えてせざるなり。今間なり。請う、その故を問わん。

「さきほど、弟子たるわたしは先生に教えていただこう、と思ったのですが、先生はまだ旅行中で落ち着いておられなかった。そこで口をつぐんで申し上げなかったのです。今は旅館におつきになられて落ち着かれました。お願いです、(わたしに教えるのはムリだとおっしゃった)事情を教えてください」

先生に教えを受けようとするにあたって、先生が落ち着いてからにするとは、立派なひとですなあ。

老子は答えた、

而、睢睢旴旴。而、誰与居。大白若辱、盛徳若不足。

而(なんじ)、睢睢旴旴(ききくく)たり。而(なんじ)、誰とともにか居らんや。大白は辱せらるがごとく、盛徳は足らざるがごときに。

「おまえはずいぶん誇らしく元気がありそうになったものじゃなあ。おまえは立派すぎて肩を並べる者はいないじゃろうなあ。ところで、「たいへん潔白なものは逆に汚されているようであり、いっぱい徳を持っている者はまだまだ修業が足らないように見える」というコトバがあったよなあ・・・」

「ぶー」

陽子居蹴然変容、曰、敬聞命矣。

陽子居、蹴然(しゅくぜん)として容を変え、曰く、「つつしんで命を聞かん」と。

陽子居は粛然として顔つきを変え、「わかりまちたでございまちゅー。ぶー」と答えた。

なんと、立派なひとだと思っていたのに、子どもか? あるいはブタ野郎か?

陽子居は老子と別れ、追われるように沛に戻っていった。

其往也舎者迎将、其家公執席、妻執巾櫛、舎者避席、煬者避竈。

その往や舎者は迎将し、その家公は席を執り、妻は巾櫛を執り、舎者は席を避け、煬者は竈を避く。

梁に来る途中では、陽子居が宿場に着くと、旅館の下働きの者はそそくさと出迎え、旅館の主人は自ら座布団を用意し、奥さまはハンカチや櫛を用意し、下働きの者は同席せず、火を求める者も同じカマドは使わないようしていた。

立派なひとだと思って敬意を表していたのである。

ところが、

其反也、舎者与之争席矣。

その反るや、舎者これと席を争えり。

帰り道では、旅館の下働きの者が「おまえさん、何をえらそうにしておるのじゃ」と座布団を取り上げて自分で座ろうとするような始末となった。

立派な人には見えなくなったのである。そのかわり、みんな本音で付き合ってくれるようになったのだ。

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「荘子」雑篇「寓言篇」より。

すばらしい。わしはみんなからなめられ、バカにされております。「おとなになれなかったのだな」とか「ぶた野郎」ともいわれております。しかしその方がいいみたいですよ。さあ、みなさんも、早くわしの境地に追いつくようがんばってくだされよ。

 

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