平成29年11月1日(水)  目次へ  前回に戻る

なんでそんなところで休んでいるんだ、サボっているんじゃないぞ、とニワトリたちに文句をつけられるトンボである。サボらせているとしてぶたも批判されている。

本日(11月1日)はカトリックの「諸聖人の祝日」すなわち「万聖節」です。「ハロー」の日というんだそうでして、その前夜が「ハロー・イヴ」→「ハローウィン」なんですなあ。ありがたや。

チャイナの周の暦が、太陽暦の11月が正月であったように、あるいは神代の日本の「にひなめ」の祭りがこの月に行われるように、11月は農事の終わり、狩猟民の暦の初めであったのである。・・・カモ知れません。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

という祝祭日を記念しまして、何百人も大量殺人したひとの話をいたしましょう。ひっひっひ・・・。

荘王侶立。荘王即位三年不出号令、日夜為楽。

荘王・侶(りょ)立つ。荘王即位して三年まで号令を出ださず、日夜楽を為す。

紀元前613年、楚の穆王が卒し、荘王・侶が即位した。荘王は、即位してから三年間というもの、何の命令も出さず、昼も夜も淫楽の日々を送っていた。

実は一つだけ、命令を出していたんです。すなわち、

令国中曰、有敢諫者死無赦。

國中に令して曰く、あえて諫する者有れば、死して赦す無し、と。

国内に布令して言うに、「(諫言はしないでよろしい。)それでももし諫言するやつがいたら、死罪とする。猶予することは無い」と。

「わかりました、好きにしてください。ではおいらたちもサボったり悪事に走ったりしよう、と」

とわたしどもなら言いますが、いつの世にもみなさんのように立派な人はいるものです。

伍挙入諫。荘王左抱鄭姫、右抱越女、坐鐘鼓之間。

伍挙、諫に入る。荘王、左に鄭姫を抱き、右に越女を抱きて、鐘鼓の間に坐せり。

伍挙は諫言のために王の部屋に入った。荘王は左手で鄭出身の女を抱き、右手で越の女を抱き寄せて楽しんでいる最中。席の左右には鐘や太鼓が置かれていて、王の動きに合わせてエロチックな音楽を奏でている。

「むむむ・・・」

怪しからん状態です。しかも諫言すると死罪になります。死罪になると困りますので、伍挙は言った。

願有進隠。

願わくは隠を進むる有らんとす。

「えー、ナゾナゾをですな、一つ、お出ししたいと思うのでございまーちゅ。聞いてくだちゃーい」

「なんじゃと?」

王は酒色に爛れた目で伍挙を見やった。

伍挙は続けます。

有鳥在於阜、三年不蜚不鳴。是何鳥也。

鳥、阜(おか)に在る有り、三年蜚(と)ばず鳴かず。これ何の鳥ぞや。

「えー、鳥が丘の上にいるんですが、この鳥、三年間というもの、飛びもしなければ鳴きもしないんです。この鳥はなんという鳥だー?」

「わっはっはっはっは」

と王は笑いまして、答えて曰く、

三年不蜚、蜚将冲天。三年不鳴、鳴将驚人。挙退矣、吾知之矣。

三年蜚(と)ばず、蜚べばまさに天に冲せん。三年鳴かず、鳴けばまさに人を驚かさん。挙よ、退け。吾、これを知れり。

「その鳥は、三年飛ばないのだが、(三年後に)飛べば遥かな高みまで飛び上がるだろう。三年鳴かないのだが、鳴けばだれもが驚くようなすばらしい声で鳴くだろう。伍挙よ、引きさがりなさい。わしにはよくわかっておる」

とりあえず死罪にならないみたいです。

「ははー、わかりまちたー」

と言って伍挙は退出いたしました。

数か月の間、王の爛れた生活はますますひどくなった。

今度は、大夫の蘇従が意を決して、すごく緊張した顔で王の部屋に入ってきた。

そして、

「王よ、このような生活でご先祖さまにどうお顔向けなさるのか」

と正面から諫言した。

王曰く、

若不聞令乎。

なんじ、令を聞かざるか。

「おまえは、諫言したら死罪にするという布令を知らないのか」

蘇曰く、

殺身以明君、臣之願也。

身を殺して以て君を明らむ、臣の願いなり。

「自分を殺して、それで王がわかってくださるなら、それこそわたくしの願うところでござる!」

「ほほう・・・」

それを聞くと王は、

「よし!」

と答えて立ち上がりました。

ただちに身の廻りの女たちを引き揚げさせ、鐘や太鼓を縛っていた紐を斬り落とすと、

所誅者数百人、所進者数百人、任伍挙蘇従以政。

誅するところの者数百人、進むるところの者数百人、伍挙・蘇従に任ずるに政を以てす。

すぐに数百人の臣下を捕らえてこれを死罪にし、別に数百人を登用し、特に伍挙と蘇従を大臣に任命して政務を任せた。

王は淫楽に耽りながら、悪事を成したり役に立たぬ者が誰であるか、善を志し役に立つ者が誰であるか、を観察していたのだ。

かくして、

国人大説。

国人、大いに説(よろこ)べり。

楚の国民は、大いに喜んだのであった。

以後、荘王は内治に務め、その余力を以て、他の諸侯の国に内乱が起こると兵を遣わしてこれを収拾し、ついに春秋の五覇のひとりと称されるのでございます。

・・・・・・・・・・・・・・・

「史記」巻四十「楚世家第十」より。

わーい、何百人も殺ちてちまいまちた。おそろちいなあ。おいらたち、絶対コロされる方に入ってるだろうなあ。なお、もちろんこの故事が「三年鳴かず飛ばず」の語源です。ゲンダイの我々の使い方と少し違うような感じがすると思います。何が違うのか考えてみてくだちゃいねー。

あ、おいらコドモ肝冷斎じゃないんだった、ぶた肝冷斎なんでした、でぶー。(まだ明日は平日だからな・・・。)

 

次へ