平成29年7月29日(土)  目次へ  前回に戻る

賢者たちが話し合うということがあるのであろうか。賢者はみんな心を開くのが苦手なはずなのに。

今日は雨に濡れて、そのあと冷房がんがん浴びたので、以前ひいたままの夏風邪が悪化したカモ。心身ともに追い込まれてきてますよ。

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むかし、ツァラトゥストラが四十何日間かかけて東方の都に来たことがあったんだそうです。

その際、東方朔と対談した。

(東方朔)

ツァラトゥストラさま、慈悲深いご老人よ、なんでまたこんな「冥頑の国」「俳優の王朝」にお見えになったのか。この国の朝廷では、聡明なひとは俳優(ピエロ)にならなければなりませんし、ピエロだけが聡明でいられるのです。ところでその「聡明」の用い場所はただ「ごまかし」しかないんですけどね。

(ツァラトゥストラ)

わたしはあなたのことをかわいそうだと思うが、あなたよりもさらに、聖賢や君子といわれるひとたちの腹の中をこそかわいそうだと思う。一番かわいそうなのは、恥ずかしくておふざけの中でしか披露できない真理でありましょうけど。

(東方朔)

わたしが彼らを笑わせるとき、その笑いは暴力的であり、火が原野に燃え広がるようなものです。「やつら」の中の指導者(主教)は眉をしかめ、政治家たち(紳士)はときおりぞっとするようです。この指導者や政治家たちが求めているのは「維持し、風化させること」で、わたしは彼らのやることに唾を吐いてやるんです。

(ツァラトゥストラ)

そういえば、この国の強欲で汚れた役人たちはみな「維持し、風化させよう」と叫んでいましたね。わたしの知るところでは、

凡維持必先改造、凡建設必先搗毀。

およそ維持せんには必ずまず改造し、およそ建設せんには必ずまず搗毀すべし。

維持しようとすればまずは改革することが必要であり、建設しようとすればまずぶち壊すことが必要だ、と思うのですがね。

この世にはモノを燃やすための火があるのではなく、光明をもたらすための火があるだけなのです。太陽は恐れるべきものではなく、すべてを生育するものであるように。

従這大城的灰燼、将有新都出現。

この大城の灰燼するによりて、まさに新都の出現する有らん。

この大きな町が灰燼に帰して、そうしてから新しい都が出現することができるでしょう。

(中略)

最後にあなたに教えておく。

爾須好好的看持真理、給她穿上規矩守礼的服装。因為裸体的真理、不是爾們的賢人君子所敢正視的。

なんじ、すべからく好好的に真理を看持せば、她に給いて規矩守礼の服装を穿上せしめよ。因為(なぜ)とならば裸体の真理は、これなんじらの賢人君子のあえて正視するのところにあらざればなり。

あなたが、これからも真理を大切にしようというのであれば、彼女(真理を女性として扱う)に規則通り・作法どおりの服を着せてやなければならない。なぜならが、あなたの国の賢者や君子、指導者や政治家は、真理そのものを直視する精神的な強さを持っていないのだから。

―――ツァラトゥストラはこのように語ったのであった。

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民国・林語堂「薩天師語録」より「薩天師与東方朔章」の一部。「薩天師」は「薩拉図斯脱拉」(ツァラトゥストラ)の略称だそうです。だいぶん意訳してしかも抄訳にしてしまいましたが、ニーチェの「ツァラトゥストラかく語りき」(1885)に感激して、林語堂がツァラトゥストラに当時のチャイナの文明を批判させた短編集。1934年に出版。

そうか、なるほど、ツァラトゥストラは来てたのか。イエスの墓も東北にあるんですから、ツァラトゥストラも近くまで来てるでしょう。

 

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