平成29年6月16日(金)  目次へ  前回に戻る

芸術はバクハツである! バクハツとは、週末だけでなく来週も会社に行かないことであろうか!

金曜日終わった・・・。来週がまた来ることがツラい・・・。

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来週が来る前に、少しでもみなさんの役に立つお話をしておきたい、と思います。

戦国の時代のこと、魏の王さまが「中天台」を築いて、そこで領地を見下ろしながら歓楽を窮めたい、とお思いになられた。「中天台」というのは「天までは届かないけど、そこまでの真ん中ぐらいの高さの(あるようなすごい高い)展望台」ということです。

しかし、そんなもの作ったらいろいろ諫言するやつが出そうだったので、

「もし諫言する者がいたら、必ず死罪にする」

と宣言した。

すると、早速、許綰(きょかん・きょわん)という小おとこが取次を求めてまいりました。

「早速コロさねばならんのかなあ」

しかし、

許綰負鍤、入曰、聞大王将起中天台。臣願加一力。

許綰、鍤を負いて入りて曰く、「大王まさに天に中するの台を起こさんとすと聞けり。臣願わくば一力を加えん」と。

許綰は、スコップを担いで入ってきた。そして言うには、

「大王さまは、これから天の半分の高さの展望台をおつくりになろうとしていると聞きました。やつがれもできればひとつ力添えをしたい、と思ってまいりましたんです」

と。

諫言ではなく、協力しに来た、というのである。

「しかし、先生にはどれほどのお力があるのかなあ」

「確かにやつがれはこのようなちびでございまして、あまり力はございません。・・・そうですな、それでは中天台の設計に参画いたしましょう」

「ほう。どんな意見をお持ちかな」

「さてさて、それですじゃが・・・」

と許綰は話し始めた。

天与地相去万五千里、今王因而半之、当起七千五百里之台。高既如是、其趾須方八千里。

天と地と相去ること万五千里、今、王よりてこれに半ばせんとすれば、まさに七千五百里の台を起こすべし。高さ既にかくのごとければ、その趾すべからく方八千里なるべきなり。

一里は500メートルで計算します。

「天と地の間の距離は7500qだそうですが、いま、王さまはその半分の高さの台を造ろうとされるのですから、3750qの高さの台を築かねばなりません。高さがそう決まりますと、その土台の大きさは4000q四方は必要になります。

尽王之地不足以爲台趾。古者堯舜建諸侯、地方五千里。

王の地を尽くすも以て台の趾を為すに足らず。いにしえ、堯・舜の諸侯を建つるや、地は方五千里なり。

これでは、王さまのご領地のすべてを使っても、展望台の土台に必要な面積に足りませぬ。たしか、超古代の堯帝や舜帝が、多くの諸侯を封建したときに、その土地を全部足して、やっと2500q四方だったはずでございます。

王必起此台、先以兵伐諸侯、尽有其地。猶不足又伐四夷、得方八千里、乃足以爲台趾。

王必ずこの台を起こさんとせば、まず兵を以て諸侯を伐ち、その地をことごとく有さん。なお足らざれば、また四夷を伐ち、方八千里を得ば、すなわち以て台の趾と為すに足る。

ということは、王さまはこの台の建設に着手する前に、軍隊を動かしてほかの諸侯国を征伐しなければなりません。諸侯の地をすべて領有できたとして、むかしより開墾地は広がっておりましょうから、それで4000q四方まで足りるかどうか。足りなければ四方の異民族を征伐して、4000q四方を確保できれば、展望台の土台作りに着手することができます。

ということですから、わたしはスコップを持ってきたが、これを矛や盾に換えねばならんのですな。

さらに、

林木之積、人徒之衆、倉廩之儲、数以万億、度八千里之外、当定農畝之地、足以奉給王之台者。

林木の積(し)、人徒の衆、倉廩の儲、数うるに万億を以てせんも、八千里の外を度(はか)りて、まさに農畝の地を定め、以て王の台に奉給すれば足るべし。

土台の上に立てる建築物の材木、建設のための作業員、かれらを食わせるために倉庫に貯えるべき食糧、どれをとっても何十万という数値になってくるかと思いますが、これらは土台の4000q四方のさらに外から調達することにして、4000q外の地に耕作できる土地を定め、そこから王の展望台に物資を運ぶ手はずを整える。

最後に、

台具以備、乃可以作。

台具以(すで)に備うれば、すなわち以て作るべし。

展望台を作るための道具をそろえれば、もうできたようなものでございますなあ!」

魏王黙然、無以応。

魏王黙然として以て応ずる無し。

魏王は黙って、答えようとしなかった。

「あれ、どうしたのですか、王さま、何か言ってくださいよ。ねえ、ねえ」

しかし王は何も言わずに手ぶりで許綰を退出させ、そして台を造るという発表を取り消したのであった。

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「晏氏春秋」巻六より。「晏氏春秋」は斉の晏嬰以外の賢者も出てくるのでございます。この魏の許綰は、道化師タイプの矮人であったのでございましょう。

それにしても天と地の間が7500qというのは知らなかった。みなさんも知らなったでしょう。勉強になり、役に立つお話だなあ。(なおゲンダイ人によれば、オゾン層が50q、電離層が500q、月と地球の距離は40万qなんだそうです。)

 

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