平成29年5月21日(日)  目次へ  前回に戻る
高カロリーのものを中心になんでも食べるぶた大王。だがさすがに「豕」は食べないはず。それより美味い↓は「食わせるでぶー」である。

出かけてホテルで朝飯を食った。そんなに美味かったわけでもない―――それ以外に何にも悪いことしてないのに、一日で体重3キロ増。なんなのだ。ゆるせん。

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有大毒者必有大美。

大毒あるものは必ず大美有り。

猛毒を持っているものは、必ずものすごく美味い。

と申します。

清の乾隆庚戌年(1790)のことですが、長く広州に行っていた族弟(年下の親族)が浙江に帰ってきまして、彼のいうことには、

広中土宜、蛇最貴、鼠次之、蜈蚣、土笋又次之、犬豕牛羊不貴。

広中の土宜、蛇最も貴く、鼠これに次ぎ、蜈蚣、土笋またこれに次ぎ、犬、豕、牛、羊は貴からず。

広州の土地のうまいもの、といえば、ヘビが最上とされます。ネズミがその次で、その次がムカデと土笋(どじゅん)ですね。イヌやブタやウシやヒツジ(の肉)はあんまりいいものとはされないんです。

うひゃあ。かなりいいモノ食べてますね。ところで「土笋」はあえてそのままにしております。食べたことの無いひとは、絶対にウィキペディアなどで調べないように。調べてもいいけど・・・。

というように、ヘビ料理が貴重なので、ヘビを獲るのを専門にする「蛇戸」というひとたちがいるのだそうである。

以前から、お役人が都から遣わされてくると、

蛇戸献蛇、重一百二十斤者為上味。

蛇戸、蛇を献ずるに、重さ一百二十斤なるもの、上味と為す。

蛇戸がヘビを献上することになっているのですが、中でも重さが70キロを超えるものが、上等とされているのです。

近世チャイナの一斤は600グラムぐらいだそうです。

しかし、これほどの大きさのモノになりますと、そう簡単には捕まらない。

万山中、求得其穴、先以茅竹鋭其端、周穴旁植之、相連四五里。人咸具糗量、於六七里外守候。

万山中、その穴を求め得て、先ず茅竹のその端を鋭くせしものを以て、穴を周りて旁らにこれを植え、相連なること四五里とす。人、みな糗量を具えて、六七里外において守候すなり。

山の中のまた山の中に、そいつの棲み処らしい穴を見つけると、まず茅や竹の一方を鋭く削ったものを、その穴のまわりにぐるりと植え込む。半径2〜3キロにわたってつながるように植えるのである。そうしておいて、蛇戸のひとびとは、食糧を持参してその外側の4〜5キロ離れたところに陣取って、見張っているのである。

ヘビが穴から出てくるまで、長い期間待ち続けるのだ。

やがて、

蛇将出穴、先有大風、腥聞数里。

蛇まさに穴を出でんとするに、まず大風有りて、腥(なまぐさ)きもの数里に聞す。

ヘビがその穴から出ようとすると、その直前、まず大いに風が吹く。その風はなまぐさく、周囲何キロにもわたって臭うのである。

蛇戸は「いよいよ来たぞ」と緊張する・・・のですが、だから何をする、というわけでもありません。じっと見張り続けるのである。

蛇戸伺之、須臾砉然直出、触着竹尖、遍身劃砕、血流満地。

蛇戸、これを伺うに、須臾にして砉然(かくぜん)と直出し、竹尖に触着して、遍身劃砕(かくさい)し、血流地に満つ。

蛇戸が見張り続けていると、突然に「バリバリ!」と音を立てて、ヘビが穴から出てくる。まっすぐに進もうとして、植えられた竹の先に引っかかるが、それが罠であることがわからないので、体中ずたずたに引き裂かれ、血が流れて地面にどぼどぼと満ち溢れるのである。

それでもヘビは、

更蟠縦里許、力疲撲倒、為人所獲。

更に蟠りて里ばかりを縦いままにするも、力疲れ撲倒し、人の獲るところとなるなり。

さらに一里(0.5キロ)ぐらいはうねりながら進むが、そのあたりで力尽きて倒れてしまう。そうすると、蛇戸たちが集まって行って、捕獲されるのである。

食べてみますと、

其肉香美肥脆、在豹胎猩脣之上。

その肉、香美にして肥脆、豹胎、猩脣の上に在り。

その肉はいい匂いがして美味く、肉厚でしかも柔らかい。「豹のはらご」「オランウータンのくちびる」よりも上等である。

「豹胎」「韓非子」説林上篇に、美味いものの代表として出てきます。「猩脣」「呂氏春秋」本味篇に出てきます。原典引っ張って来るとめんどくさい(ああ、もう深夜になってきた!)ので引用しませんが、明代にほかのシカの鼻とかと一緒に「八珍」(八種類のめったにない美味いもの)とされ、超越お偉方たちの満漢全席などに使われるようになったんです。言っておきますが、特に「豹胎」は検索して写真とか見ない方がいいですよ。まあ、そういうモノがスキなひともいるんでしょうけどね・・・。

(この項、続く)

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清・破額山人「夜航船」巻三より。ヘビは美味そうだなあ。

 

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