平成28年5月27日(金)  目次へ  前回に戻る

遠い日を思い出すのかカエル仙人。それとも未来への思いか。

毎週疲れる。そしてその間に、確実に老いてきている。もうダメだ・・・という日々、そういえば今日はオバマさんが広島へ行ったんでした。歴史的な一日となった。

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唐の開元年間(713〜741)のことである。

御史中丞の楊慎矜がある日の朝、朝廷に出かけようとして、

家奴開其外門。

家奴、その外門を開かんとす。

下男たちが表門を開こうとしていた。

ところがどういうわけか、

既啓鎖、其門噤不可開。

既に鎖を啓くも、その門噤にして開くべからず。

門を閉ざしていたクサリを外したのに、門が閉じたままでぴくりとも動かないのである。

「どうした?」

慎矜は驚き、不思議に思った。

「表から誰かが押さえ込んでいるのか?」

時に、

天将暁、其導従群吏自外見。

天まさに暁らんとし、その導従群吏外より見る。

夜明け方で、慎矜の先導や随従をする下級役人どもが出勤してきて、門の外から見たところでは―――。

その門の外には、

有一夜叉。長丈余、状極異、立於宇下、以左右手噤其門。

一夜叉有り。長丈余にして状きわめて異、宇下に立ちて左右手を以てその門を噤ず。

一体の夜叉(妖怪)がいたのだ。背丈は3メートル近くもあってたいへん奇妙な姿をして、門の軒下に立って、左右両手でその門を押さえこんでいたのである。

その夜叉、

火吻電眸、不顧左右。従吏見之、倶驚慄四去。

火の吻、電(いなずま)の眸、左右を顧みず。従吏これを見て、倶に驚慄して四去す。

口からは火を噴き、目からは電気がほとばしっていた。回りには注意を払っていなかったが、随従の下級役人たちはこれを見て、みな驚き恐れて、四方に逃げ出してしまった。

しばらくして、

街中輿馬人物稍多、其夜叉方南向而去。行者見之、咸辟易仆地。

街中に輿・馬・人物やや多く、その夜叉まさに南に向かいて去る。行く者これを見、みな辟易して地に仆る。

街の中に車や馬や人が増えてくると、その夜叉はようやくまわりに気づいたようで、すぐに南の方に向かって走り去った。そのとき、通りがかりに夜叉の姿を見た者は、みな耐えられないほどの気分になって地面に倒れてしまった。

やっと門が開いて外に出てきた楊慎矜は、ひとびとからこのことを聞いて、

懼甚。

懼るること甚だし。

たいへん恐怖したのだそうです。

「なんという不吉なことであろうか・・・ぶるぶるぶる」

それから一か月後、予想どおり遂に李林甫のワナにかかり、慎矜のみならず楊氏の兄弟はみなそろって誅殺されたのであった―――。

・・・うわーい、コワいでちゅねえ。

夜叉が?

いえ、兄弟皆殺しのニンゲン社会が。

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唐・張讀「宣室志」巻三より。

こういう、夜叉が押さえ込んでいたかと思えるような「閉塞」が、外交のおかげで一つはずれたような、なんだか心地よい訪問であったように思います。

 

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