平成26年12月9日(火)  目次へ  前回に戻る

「なんだって!秦の恵王が?」

まだ春は来ないのでしょうか。こんなに寒いとニワトリだって一か所に身を寄せ合って暖をとったりしているものでございます。

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戦国の時代、説客の蘇秦はまず秦の恵王(在位前337〜前310)に説いて、秦がほかの六国とそれぞれに同盟するいわゆる「連衡」を献策しましたが、恵王はその人柄を信頼せず、彼の献策を用いなかった。

資金も尽きた蘇秦は尾羽打ち枯らして郷里に帰り、今度は六国が同盟して秦と対抗するいわゆる「合従」策を説いて回った。

この動きを心配した恵王は、寒泉子なる謀臣に諮って曰く、

蘇秦欺寡人、欲以一人之智、反覆東山之君、従以欺秦。

蘇秦は寡人を欺き、一人の智を以て、東山の君を反覆し、従(しょう)して以て秦を欺かんと欲す。

この「欺く」は「だます」のではなくて「困らせる」「軽蔑する」というニュアンスです。

「蘇秦のやつはわしを軽侮して、おのれひとりの智慧で東方の諸侯たちの考えをひっくりかえさせ、合従策に統一させて、我が秦を困らせようとしておる。

蘇秦一人で動いているならどうともなるまいが、

趙固負其衆、故先使蘇秦以幣帛約乎諸侯。

趙もとよりその衆を負(たの)み、故にまず蘇秦をして幣帛を以て諸侯に約せしむ。

中原の趙国は人民が多いのを恃んで以前から我が国と対抗しようと思っていたようだが、蘇秦に財物を持たせて各国に説いて回らせ、同盟の約束を取り付けつつある。

このまま放っておくわけにもいくまい。どうしてくれようか」

寒泉子は言った。

「御随意になさりませ。

諸侯不可一。猶連鶏之不能倶止於棲、亦明矣。

諸侯一にすべからず。連鶏のともに棲に止まるあたわざるがごとく、また明らかなり。

諸侯が一つにまとまっていられるわけがございますまい。ニワトリども同士を縄で繋いで一か所の巣に集めておこうとしても、それぞれに行きたい方に行こうとして大人しくしていることができないのと、同じことに決まっておりまする」

「ふん。わしはアタマに来ておるから、武安子・白起を各国に遣わして諸侯に合縦を思いとどまり連衡の策をとるように説かせようかと思っておる」

白起は秦の名将であり、その令名は各国に鳴り響いていた。いわゆる「泣く子もだまる・・・」という英雄である。

寒泉子はかぶりを振った。

不可。夫攻城堕邑、請使武安子。

不可なり。それ城を攻め邑を堕(お)とすには、請う、武安子を使え。

「なりませぬな。敵の城を攻め、都市を陥落させるのであれば、武安子さまにお願いするのがよろしかろう。

しかし、

善我国家、使諸侯、請使客卿張儀。

我が国家を善くして諸侯に使いせしめんには、請う、客卿・張儀を使わしめんことを。

我が国と同盟してもらえるように諸侯に説かせるには、どうか顧問大臣の張儀どのにお願いくださりたく・・・」

「なるほど・・・、他国人にやらせるわけか・・・」

「御意」

「よかろう、たとえこの策で下手を打っても、我が秦が傷つくことは無いわけじゃからな」

「御意」

「ふわっはっはっはっは・・・・」「くっくっくっくっく・・・」

これ以降、張儀は各国に連衡策を説いて回り、蘇秦との閧ノ華やかな「縦横」の論戦を繰り広げるのである。

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大笑いして楽しそうです。うらやましい。「戦国策」巻三(秦策上)より。

まあ、でも、こちらも

「うひひひひ」

繋がれたニワトリがめいめいの行きたい方に向かって引っ張り合っている姿を想像したら、おいらも自然に笑顔に。ささくれ立った心も癒されていいきます。

なお「連鶏、ともに棲に止まるあたわず」は「複数の独立した行為者がその行動を統一するのは無理」という意味の成語でございますので、覚えておこう。

 

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