平成26年9月5日(金)  目次へ  前回に戻る

←大自然の動きに敏感でありたいでぶう。

なんとか週末。月曜日が来る前に世界がホロンでしまえばいいのに・・・と心ならずも思ってしまう。

それにしてもこの夏は豪雨とか台風とかの被害が多かったですね。まだ秋にもあるのかな。

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紀元前538年正月、大いに雹が降った。

魯の卿・季武子が問うて曰く

雹可御乎。

雹、御すべきか。

「雹はコントロールできないものなのか」

顧問の申豊が答えて曰く、

「えーと・・・

聖人在上、無雹。

聖人上に在れば、雹無し。

聖人が位についていれば、雹は降らない。

・・・と申しますが、いや、ちょっと言い過ぎですかなあ・・・。

雖有、不為災。

有りといえども、災を為さず。

もし雹が降ったとしても災害には至らない、ぐらいでしょうか。

むかしは太陽が北の方の星宿に移ったころ(周暦の厳冬である11月ごろ。なお、周暦は今のわれわれの太陽暦に+2か月ぐらいしたイメージ)に氷をしまいこんで貯え(いわゆる「氷室」に蔵するのである)、西の星宿に移ったころ(夏4月ごろ)に氷室から取り出したものでございます。

其蔵冰也、深山窮谷、固陰冱寒、于是乎取之。

その冰を蔵するや、深山窮谷の固陰冱寒にし、ここにおいてかこれを取る。

氷をしまいこむところは、深い山中の谷の奥、日もささず水気も無いひえびえと冷たいところ。その場所から、夏のはじめに取りだすのでございます。

取りだした氷は、大夫や士などの役職を持つ者に給い、お客や葬式のあったときに使用させたものでございます。

そのような重要なものでございましたから、

其蔵之也、黒牡、秬黍以亨司寒。其出之也、桃弧、棘矢以除其災。

そのこれを蔵するや、黒牡・秬黍以て司寒を亨す。そのこれを出だすや、桃弧・棘矢以てその災を除く。

氷を蔵するときには、黒い牡牛と黒キビを捧げて「司寒」(冬神さま)の神に祈り、氷を切り出すときには、桃の枝で作った弓、ナツメの枝を削った矢を祭器として、ワザワイを祓ったのでございました。

当時は肉を食うほどの地位のひとなら、みな氷の配布に与ったものです。

自命夫、命婦至老、疾、無不受冰。

命夫、命婦より老、疾に至るまで、冰を受けざるは無し。

任命された大夫とその正妻から、夏の暑さに耐えられない年寄や病人に至るまで、必要なひとにはすべて氷が配られたのです。

そして、これに関与するのは、

山人取之、県人伝之、輿人納之、隷人蔵之。

山人これを取り、県人これを伝え、輿人これを納れ、隷人これを蔵す。

これを取りだすのは山中に住む民、これを都に持ちきたるのは辺境の民、これを都に運び込むのは輿担ぎども、倉庫にしまいこむのは宮中奴隷どもでございます。

いずれもニンゲンとしての判断力など持たず、それゆえに神霊そのものと心を通わせることができる(と考えられていた)従属民どもばかりなのです。

夫冰以風壮、而以風出。

それ、冰は風を以て壮し、風を以て出だす。

ああ、氷は、冬の寒風の中で堅くなり、春の暖かい風が吹くときに取りだすもの。

季節の力を大いにその中に貯えているものなのでございます。

其蔵之也周、其用之也遍、則冬無愆陽、夏無伏陰。春無凄風、秋無苦雨、雷出不震、無災霜雹、癘疾不降、民不夭札。

そのこれを蔵するや周、それこれを用いるや遍なれば、すなわち冬に愆陽無く、夏に伏陰無し。春には凄風無く、秋には苦雨無く、雷は出づれども震せず、災に霜・雹無く、癘疾降らず、民は夭札せざるなり。

いにしえは、氷を広い範囲で保存し、これを多くのひとびとに配布したものでございますから(大地にも人民にも怨嗟の思い無く)、冬にまちがって陽気が萌すことも、夏に陰気が忍び寄ることもなく、春にすさまじい風が吹いたり、秋にじめじめと雨が降ったりすることもなかった。また、カミナリは鳴りますが大地に落ちることなく、霜や雹が災害を起こすことも無く、はやり病いは流行することなく、人民は若死にすることも無かったのでございました。

「夭札」は「夭折」と同じ。

ところが、今は如何でございましょうか。

蔵川池之冰、棄而不用。風不越而殺、雷不発而震。

川池の冰を蔵すも、棄てて用いざるなり。風越えざるに殺(さい)し、雷は発せざるに震す。

川や池の氷を(祭祀もせずに)貯えるのですが、その大切なものを遍くひとびとに配ることもなく棄てて利用しないでいる。このため(大地にも人民にも怨嗟の声が起こり)寒風がまだ北の山脈を越えて下りて来ないのに、もう草木は枯れ始め、カミナリが鳴りもしないのに落雷による災害が起こるようなことになっております。

結論。

雹之為災、誰能御之。

雹の災を為す、誰かよくこれを御さん。

雹が災害を起こすとしても、誰がこれをコントロールすることができましょうか」

「う〜ん、なるほど」

季武子は大いに頷いたことであった。

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氷をちゃんと配れば災害は無くなるみたいです。「春秋左氏伝」昭公四年

 

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