平成26年2月10日(月)  目次へ  前回に戻る

 

本日は飲み会。寒かったせいか、あたま爆痛。どかーーーん!と爆発しそう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

清の時代。姚安公がいうには―――

わしの若かりしころのこと。

一夕与親友数人、同宿舅氏斎中、已滅燭就寝矣。

一夕、親友数人と、舅氏斎中に同宿するに、すでに燭を滅して就寝せり。

ある晩のことじゃが、親しい友人らとヨメの実家の一室で泊まることになり、すでに燭台の灯も消えてみんなぶうすか寝ついたころじゃ―――

どかーーーーん!!!!!

忽大声如巨炮、発于床前、屋瓦皆震。

たちまち大声の巨炮の如き、床前に発し、屋瓦みな震えり。

とつぜん、巨大な大砲が火を噴いたかというような大きな音がベッドの側でした。屋根の瓦まで震動したほどであった。

驚きと恐怖で、

満堂戦慄、噤不能語。

満堂戦慄し、噤みて語るあたわず。

部屋中のひと、みなおののきふるえ、口をつぐんで誰ひとりことばを発する者は無かった。

なかには

有耳聾数日者。

耳聾すること数日なる者も有り。

数日の間、耳が聞こえなくなってしまった者もいたのじゃ。

さて、このときは冬十月であり、カミナリが落ちるような季節でも無いし、誰もいなずまや火薬の爆発する光を目撃しておらぬ。雷などの自然現象や爆発物の爆発ではなさそうである。

同期生の高爾玿というやつがみなをぎろぎろ見回して言うに、

此為鼓妖、非吉徴也。主人宜修徳以禳之。

これ「鼓妖」なり、吉徴にあらず。主人よろしく徳を修め以てこれを禳うべし。

「これは、「鼓妖」というやつじゃぞ。よいことは起こらぬ。この家の御主人は、よくよく徳を修めて、この凶兆を拭い去らねばなりますまい」

―――「鼓妖」というのはなんであろうか。

「漢書」にいう。漢の哀帝の建平二年(前5)に、時の御史大夫が丞相に任命され、宮廷にてその任命書を受け取ったとき、

有大声如鐘鳴。

大声の鐘の鳴るが如き有り。

鐘が「ごーーーーん」と鳴ったような、どでかい音がした。

「これはいったい?」

黄門侍郎・楊雄が、李尋に訊ねると、李尋が答えていうには、

洪範所謂鼓妖也。

洪範にいわゆる鼓妖なり。

「書経」の「洪範」に触れられている「鼓妖」というやつであろう。

「それはいかなる妖でございますか?」

と問うに、李尋、声をひそめて曰く、

為衆所惑、空名得進、則有声無形、不知所従生。

衆の惑うところと為りて、空名進むを得れば、すなわち声有りて形無し、知らずよりて生ずるところを。

「多数のひとが間違って推薦したために空虚な名声だけの者が高位に進むことがあると、音だけがあって形の無いこの妖が現れるのじゃ。どこから生まれてくるのかはわからぬ」

と。

すなわち新たに任命された丞相が、虚名であるので起こった妖事である、ということであった。

―――というものである。

高爾玿の話を聞いて、主人(ヨメのおやじ)はおおいに身を慎み、毎日気をつけながら暮らした。おかげで、

是歳家有縊死者、別無他故。殆戒懼之力歟。

この歳、家に縊死者有るも、別に他故無し。ほとんど戒懼の力か。

この年、この家では首を吊ったひとが一人出たが、それ以上の事件は無かった。畏れ慎んだことによるのであろう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

清・紀暁嵐「閲微草堂筆記」巻八より。畏れ慎めば、首吊りひとりぐらいですむみたいです。

なお、かちかちに凍っていた肝冷斎は、お湯に入れておいたらだいぶあたたまってきました。

 

表紙へ  次へ