平成26年1月28日(火)  目次へ  前回に戻る

 

今日は少しあたたかかった。

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晋の太康年間(280〜289)のこと、廣陵太守の鄭襲の厩番の某という男、

忽如狂、奄失其所在。

忽ち狂えるが如くなり、奄としてその所在を失う。

突然おかしくなってしまい、どこかに身をくらましてしまった。

手を尽くして探していると、数日してから、

裸身呼吟。膚血淋漓。

裸身にして呼吟す。膚血淋漓たり。

すっぱだかで唸っているのが発見された。皮膚は裂け、血だらけであった。

連れ帰って手当をしてから、みなが訊ねた。

「いったい何があったのだ?」

某答えて曰く、

「社公(土地の守り神)に連れ出されたのです。そして、

社公令其作虎、以斑皮衣之。

社公、その虎を作せと令し、斑皮を以てこれに衣せしむ。

社公さまは、わたしに「虎になれ」と命じ、わしにまだら模様の虎皮をむりやり着せたのです」

某はしかし、

辞以執鞭之士、不堪虓躍。

執鞭の士、虓躍(こうやく)に堪えざるを以て辞す。

「執鞭之士」「論語」述而篇中の

富而可求、雖執鞭之士、吾亦為之。

富にして求むべくんば、執鞭の士といえども、吾またこれを為さん。

財富というものが求めるべきものならば、わたしは、鞭を執るようなしごとであっても(富につながるのであれば)するであろう。

しかし、それは求めるべきものではないのだ・・・という孔子の言葉の中に出る語。「鞭を執る」とは主君の乗る馬車の御者となること、転じて賤役に従事することをいう。

「主君の馬の世話をするしがない男でございます、どうして虎のように吼えたり跳ね飛んだりできましょうか」

と言って虎になることを断った。

すると、社公は怒り、

「怪しからん」

と、

還使剥皮。

また皮を剥がしむ。

今度は、着せた虎皮を剥ぎ取ったのである。

皮已著肉、瘡毀惨痛。

皮すでに肉に著き、瘡毀して惨痛なり。

「そのとき、虎の皮はすでに肉に引っ着きかけていたので、それを剥ぎ取るとき、肉まで裂けてこのような痛い傷になったのでございます」

とのこと。

その後、

旬日乃差。

旬日すなわち差(い)ゆ。

十日ほどすると治った。

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南朝宋・劉敬叔「異苑」巻八より。

痛そうですね。ただこの人は十日ほどで癒えるような傷で済みましたが、わたしどもは今日はあたたかかったとはいえまだ冬ですので、着ているものを剥がれたら寒くて凍死します。もうしばらく黙って、着るように命じられたナニモノかの皮を着こんでおこう。春になったらこの皮を脱いで自分に戻ればいいのだ。・・・が、そのとき着こんでいる皮が、たやすく脱げるかどうかはわからない―――。(脱げないとこうなるのかな→「桓闡化虎」

ちなみに今日は大事なしごとをしてきた。

 

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