平成26年1月2日(木)  目次へ  前回に戻る

 

うわあ、もうすぐシゴトハジメが来るーーー!

今この時間も、おそろしいシゴトハジメが凍てつく冬の夜の闇の中を、我らの町にひたひたと迫って来つつあるのだ。

「ええーー! そんなものが?」

と驚くかも知れませんが、むかしは↓のようなものも毎年来ていたようです。

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姑蘇城外の寒山寺から、夜半の鐘の声も聞こえてきた、という楓橋のあたりの運河の水底に

有青石一、方可長四五尺。

青石一、方にして長さ四五尺ばかりなる有り。

青くて、一辺だいたい一m強のほぼ立方体をした石が沈んでおった。

のじゃ。

運河の水は清んではいなかったがそれほど深くないので、水上からもその姿はぼんやりと見えたものであった。

この石は、実は、

毎至秋間能自出行于河。

秋間に至るごとに自ら河に出行す。

毎年、秋ごろになると、自分で運河から出て移動する石であったのじゃ。

「ええーー? そんなバカな!」

と思いなさるじゃろうが、例えばある歳の秋には、

有木商泊筏于港口。石自其下過。

木商の筏を港口に泊する有り。石、自からその下を過ぐ。

材木商が材木を組んだイカダを停泊地に繋いでいたところ、例の石がそのイカダの下をごろごろと通り過ぎたのじゃ!

途端に

木為撑起尺余。

木は撑起すること尺余なり。

木材は一尺余りも浮き上がったのじゃ!

材木商は驚きながらも、

「来たぞ――――! 皆の衆、気をつけられよ、例の石が動いておられるぞ!」

と他の船に聞こえるように呼ばわった。

だが、そのときすでに遅かったか、

覆一麥舟。

一麥舟を覆す。

ムギを積んだ舟が一艘、転覆した。

その後も水面に、その石が下を動いたと見えて、波が走ったり止まったり直角に曲がったり、一か所で噴水のように水を噴き上げたりしていたが、しばらくすると気配が消えた。

船乗りたちは全神経を集中して水面の異常を監視していたが、不意に、

「あ、あそこに、例の青い石が!」

一人の船乗りが岸辺を指さした。彼によるとそこには例の石によく似た青い石が、まるで寝そべるように転がっていた、というのだが、ほかの者の目には何も見えなかった―――

だが、その直後、

どぶん!

とどこかで重いモノが水中に落ちる音がして、

復自外入水、起如前。

また外より水に入り、前の如く起つ。

石はおそらくまた水の中に入たらしく、水面に波を立てながら、従前あったあたりまで移動した。

「どうした?」

と船乗りたちが水底を見つめると、石はいつも見られるところに、何ごとも無かったかのように沈んでおった―――という。

ああ、なんと不思議なことではないか。

あるひとの話ではこの石は

塚墓間物淪没于此、歳久為怪。

塚墓間の物のここに淪没し、歳久しくして怪を為すなり。

お墓にあった石であったものがこの場所に沈んで、それから永いこと放っておかれたので、ついに妖怪となったのである。

とのこと。

いずれにせよ、

今猶在水中、時為変怪。

今なお水中に在りて、時に変怪を為す。

今もなおその水中にあって、しばしばあやかしのことを為すのである。

のじゃ。

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ただし、2014年の今はどうなっているか知りません。熱気球で尖閣に飛んでくるような元気のある人に、ぜひ調べてみてほしいものだが。

明・陸燦「庚巳編」より(「奇聞類紀摘抄」巻一所収)。

 

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