平成25年11月19日(火)  目次へ  前回に戻る

 

事務的にやりますよ。感情無いんで。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

東晋の隆安元年(397)、雍州の刺史・郗恢の家でもう夜中だというのに、なにやら子どもたちが騒いでいる。

主人の郗恢が燭を持って

「いったいなにごとか」

と顏を出すと、

「あ、おやじたま、実は・・・」

と子どもたちのいうことには―――

有一物如蜥蜴。毎来輙先扣戸。則便有数枚、便滅燈火。

一物の蜥蜴の如き物あり。つねに来たるにただちに先ず戸を扣(たた)く。すなわち数枚有りて、すなわち燈火を滅す。

トカゲのようなモノが来るんでちゅ。やつらは来ると、まずは外から戸を叩きます。戸を開けてやるとそこには何匹かのそいつらがいて、そいつらが睨むと燈火が消えてしまうのでちゅ。

このため

児女大小、莫不驚愕。

児女大小、驚愕せざるなし。

子どもたちは少し大きいのも小さいのも、どきどきして眠れない。

今夜も来るのではないかと待っているのだ、というのであった。

「そのトカゲみたいなのは、何をしに来るのかな?」

「わかりまちぇん。灯りをつけ直すときにはもういなくなっているのでちゅ」

「う〜ん、そんなものがいるはずないじゃろう。いつまでも騒いでいないでもう寝るがいい・・・」

としかりつけている、ちょうどそのとき、

トン、トン。

と戸を敲く音が。

膝の高さぐらいのところから聞こえる。

「ほら、来まちた、来まちたよー」

「風のせいに決まっておる」

と言いながら、郗恢が戸を開けてみると、そこには人の腰ぐらいの高さのトカゲが数匹、闇の中に立ち上がっていた。

「あ―――」

と叫び声をあげた瞬間に手にしていた燭が、何ものかに吹き消されたかのように消えた。

「誰か!誰か、燈火を持ってこい!」

「あい、ただいま」

家人が奥の間から燈火を持ってきたときには、もう戸の向こうには何もいなかった。表に出てよくよく調べてみたが、怪しいものの気配もなかったのである。

さて、翌年、殷仲堪が反乱を起こした。

殷は郗恢を仲間に引き込もうとしたが、郗恢はこれを否んで都・建安に逃げ帰ろうとし、

道路遇害、并及諸子。

道路に害に遇い、并(なら)びに諸子に及べり。

その途上で反乱軍に出会って惨殺された。そのとき、あの夜トカゲの怪をともに見た子どもたちはみな、巻き込まれて殺されてしまった。

やっぱり夜更かしはいけませんね。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

宋・劉義慶「幽冥録」より。

あ、そうですか。ふーん。と事務的に。トカゲのでかいのと反乱軍との関係とかよくわかりません。何か関係あるのかも知れませんしないカモ知れません。なお、このトカゲは、おそらく小型恐竜の最後の存在記録ではないかとも思うのですが、ちがうかも知れません。いずれにせよ淡々と。感情無いので。

 

表紙へ  次へ