平成24年3月25日(日)  目次へ  前回に戻る

 

だいぶ怒られたので疲れた。明日も行かないと。

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其疾如風。

○魏武侯(曹操)曰く、

空虚を撃つなり。

敵の隙間を攻撃する、ということである。

○唐・開元から天宝にかけての道士・李筌の注によれば、

進むと退くとなり。その来たるや跡無く、その退くや至りて疾(はや)きなり。

軍の進退のことを言っているのである。その進撃時は相手に気づかれることなく、また退却時にはきわめて速く行動せねばならない。

○南宋の戦史家・張預の注によれば、

その来たるや疾暴、向かうところみな靡く。

その来攻の際には素早く激しく、向かうところは(草のように)みな靡き臥すように戦え、ということだ。

疾(ハヤ)キコト、風ノ如シ。

とは、進攻のときをいうものと退却時を含むとするものと二解ある。また、@「風が音も無く近づくように、相手の虚をつく」という解とA「風が草を靡かせるように強く戦え」という解が成り立ち得るようです。ここでは、@をとって次のように訳してみた。

行動を速やかにしなければならないときは風のように相手に気づかれぬようにせよ。

其徐如林。

○魏武侯曰く、

利を見ざるなり。

こちらが有利でないときにとるべきことである。

○李筌曰く、

陳を整えて行くなり。

陣形を整えて行動しろ、ということである。

○唐・杜牧曰く、

徐は緩なり。言う、緩行の時はすべからく行列すること林木の如くすなり、敵人の掩襲を為すを恐るなり。

「徐」(おもむろ)というのは緩やかにすることである。この言葉の意味は、ゆっくり移動するときは、隊列を林の木のように整序しなければならないということだ。敵がいつ襲ってくるかわからないから警戒するのである。

○杜牧の孫にあたる杜佑がいうには、

利を見ざれば前(すす)まず、風の林を吹くごとく、小動にしてその大移らざるなり。

有利でないなら進撃しない。風が林を吹くときのように、枝を揺らし葉擦れをは起こすことはあっても、幹や根を動かすことはしないのがよい。

杜佑を除けば、次の行動に移ることができないときには、林の立木のように隊伍を整えていなければならない、という解に落ち着くようです。

よって、

徐(シズ)カナルコト、林ノ如シ。

ゆっくりと行動すべきときは林のように隊列を整然とさせよ。

ということです。「徐」を「しずか」と訓じる点で信玄公の解釈とはだいぶ違う感がありますね。

なお、もし杜佑注を採用すれば、

ゆっくりと行動すべきときは林のように(偵察を出すなどの小さな行動はするが)根幹を動かさないようにせよ。

ということになりますかな。

侵掠如火。

○魏武侯曰く、

疾きなり。

(敵国に攻め入るときは)素早く動け。

それは「風」ではなかったのか、という疑問がわきますね。

○李筌曰く、

火の原を燎(や)く如く、遺草無からん。

(敵国に攻め入ったときには)火が乾燥した草原を焼き尽くすように、敵の根拠を一つも残させてはならない。

○杜牧曰く、

猛烈にして嚮うべからず。

(国内に敵に攻め込まれると)猛烈で、迎え撃つこともできない。

○唐の終わりごろ、節度使の参謀を務めていた賈林の注によれば、

敵国を侵し掠むるは、火の原を燎くがごとく、往復すべからず。

敵国に攻め入るという行為は、火が乾燥した草原を焼き尽くすようなもので、一度はじめたら後戻りができない。

侵掠スルコト、火ノ如シ。

というのは、賈林注に個性がありますが、あとの人の注によれば、だいたい

侵掠(敵国に攻め入るとき)は火が草原を焼き尽くすように敵を残させないようにせよ。

ということでいいのではないかな。

不動如山。

○魏武侯曰く、

守るなり。

守備のときのことである。

○李筌曰く、

軍を駐するなり。

軍隊を駐屯させるときのことである。

○杜牧曰く、

壁を閉ざすこと屹然として、揺動すべからず。

(守備の際には)山がそびえたつように城壁を閉ざし、動揺することがあってはならない。

○賈林曰く、

いまだ便利を見ざるに敵の我を誘い誑かさば、我はよりて動かず、山の安らかなる如くなり。

まだ有利な状態にならないときに、敵がこちらを誘い、また騙してくることがあるが、こちらはそれによって動くことなく、山のようにじっとしている必要がある。

○張預曰く、

持重する所以なり。荀子の議兵篇にいうに、「円居して方正、すなわち盤石然たるがごとくならば、これに触るるものの角(つの)摧(くだ)かる」と。言う、不動の時は、山石の移すべからざるがごとく、これを犯すものはその角、たちどころに毀(こぼ)たれん。

慎重を期している状態である。荀子「議兵篇」に「外縁は(守備側に負担の少ない)円形の垣を設け、その内部はきちんとした方形の陣構えにし、巌や岩石のように動かないこと。そうすれば、敵がこれにツノをつけてきても、そのツノを砕いてしまうことができる」と書いてある。軍が動かずにいるときは、山の岩のように(敵によって)動かされないようにせよ。そこに仕掛けてくる敵があったら、たちまち敵の勢力を粉砕することができよう。

ということで、

動カザルコト、山ノ如シ。

は、だいたい

防御の際には山のように一か所も揺るがないようにせよ。

ということでしょう。

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ああ、おもしろかった。明日もしごとで早いんですわ。もう寝ないと。十一家注「孫子」巻中「軍争篇」より。

 

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