平成23年11月22日(火)  目次へ  前回に戻る

 

明日お休みです。うふ。うふふ。すべては明後日まで先送りだよー。ああ、そう思うだけで何でこんなに幸せな気持ちになれるのだろう。

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では今日は脳みそ幸せになるようなお話を。

唐・天宝年間(742〜756)のことでございます。

外つ國より

軟玉鞭

を貢いできました。

「こんなのいただきまちたよー!」

皇帝の前で献上箱を開けて取り出します。

やわらかな「玉」でできたムチである。

玉とは鉱物である。軟らかであること自体すでに矛盾ではないか。それがムチのようにしなるのである。

屈之頭尾相就、舒之勁直如縄。

これを屈すれば頭・尾あい就き、これを舒ばせば勁直縄の如し。

これを曲げれば、頭としっぽの両端をひっつけることができるし、これを広げて伸ばせばまっすぐでかちかちなること引っ張った縄のようである。

不思議なものであったが、帝(玄宗皇帝)はこれを

碧玉糸

で編んだ鞘に納め、縫いとりした袋に入れて保管するように命じた。

「あい、わかりまちたー!」

と仕舞い込みます。

さて、「糸」とはみどりの「玉」製の糸である。

「玉」が糸になり、編むことができるのか。実はこの糸は鉱物ではなく、生物起源のものなのである。

この「碧玉糸」もまた外つ國の献ずるところ。その國の名は「彌羅國」(ミラ國)※と伝わる。

其國桑上有蚕、其色金、其糸碧。亦曰金蚕糸。

その國、桑上に蚕あり、その色金、その糸碧。また曰く「金蚕糸」。

その國の桑の木にはカイコがいる。そのカイコは黄金色。その吐き出す糸の色はみどり色。その糸はまた「黄金カイコの糸」ともいわれるのである。

その糸は、

縦之一尺、引之一丈。

これを縦ままにすれば一尺、これを引けば一丈なり。

これをそのままにしておけば一尺(30センチ弱)の長さ、これを引っ張ると、カイコはずるずると糸を吐き出し、一丈(3メートル弱)の長さになる。

「へんなものでちゅねー」

おいらはその碧玉糸の鞘にすりすりしてみた。

「おほほほ、かわいいのう、童子は」

と貴妃さまの鈴のようなお声が聞えた。

碧玉糸は、ほのかに青い草の匂いがした。

※ちなみに「彌羅國」とは西域の国名で、漢代の「罽賓國」(ケイヒン國)であるといい、唐にはこれを「迦湿彌羅」(かしつみら)と呼んだという。さればこれは「カシミール」である。シナに養蚕を伝えたのはカシミールであると想定されているから、この話はそのことの遥かな記憶により紡がれたものかもしれない・・・。

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唐・蘇鶚「杜陽雑篇」より。さあ眠るぞ。明日起きて会社に行かなくていいしあわせを抱きしめながら。

 

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