平成22年4月8日(木)  目次へ  前回に戻る

怪しからんことでワン。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

沈協というのは、15世紀はじめごろ、福州の知事を三期務めたひとである。

この間、盗賊を討伐することに熱心で朝廷からもお褒めに与かったことがあったが、実際のところは

利平人之財、輙殺而取之。

平人の財を利とし、すなわち殺してこれを取る。

普通のひとの財産を欲しがって、(盗賊の汚名を着せて)そのひとを殺して財産を没収していただけだ。

・・・という噂を立てられていた。

退官して郷里の江蘇・呉県の甫里に帰り、余生を送ろうと田地を買い、大きな邸宅を建てたのであった。

その邸宅が建ってしばらくしたある日のこと、突然妻に向かって、

「はやく宴会の用意をせよ」

と言いつけた。

妻がいぶかしんで、一体どういうお客があるのか問うと、

見死者数十人、羅立於前。

死者数十人、前に羅立するを見る。

「死んだやつらが数十人、そこにずらりと並んでいるのが見えぬのか。」

と言い出したのである。

妻が驚いて

「亡くなった人がお見えになるわけが無いでしょう」

と反論したところ、沈は首を横に振り、

此輩自遠而来、我難推托矣。

この輩遠きより来たる、我は推托しがたきかな。

「この方々はずいぶん遠いところをお見えになったのじゃぞ。わしには追い返すことなどできん」

と怒ったように答えたのだった。

その日から、沈は、

日夜与鬼語如対生人。

日夜、鬼と語ること生人と対する如し。

昼も夜も死霊たちと会話しているようになった。その会話はまるで生きているひとたちと交わしているかのようであった。

妻は人を頼んでお祓いをしてもらったが効き目は無く、まもなく沈は

疽発背而死。

疽、背に発して死す。

背中にできものができて、死んでしまった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

じゃんじゃん。

明前半の夢蘇道人・王リ「寓圃雑記」巻第十より。ちなみに著者も江蘇・呉県のひとなので、沈協は同郷人に当たります。

別に呪われたというような死に方でも無さそうですから、前半の部分はほんとにただの噂だっただけかも知れません。お役人がそんな非道いことするはずございませんもんネ。(ひとがナイター観に行くのを邪魔する程度だ)

 

表紙へ  次へ