平成22年4月2日(金)  目次へ  前回に戻る

HPを少し改造しよう・・・と思いつつ、今日もアルコール入ってキモチ悪いので、めんどくさいことは止めまして、健康食品のご紹介をいたします。

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回回(もとウイグル族を指す語であるが、ここではムスリム諸国一般を指しているようである)の田舎暮らしの老人は、年齢七十から八十に達すると、自らの身を以て人民の役に立てるため、自ら「蜜人」(人間ハチミツ)になろうとするのである。

どのようにすれば「蜜人」となることができるのか。

まず、

絶不飲食、惟澡身啖蜜。 

絶して飲食せず、ただ身を澡(あら)い蜜を啖(くら)うのみ。

ほかの飲食を絶ち、ただ体をきれいに洗って、ハチミツのみを摂取するのだ。

そのようにして一月ほどすると、

便溺皆蜜。

便溺みな蜜なり。

大小便がいずれもハチミツとなる。

さらに絶食を続ける。

やがてこの老人が死ぬと、国中に報せがなされ、ひとびとは喪に服する。

そして、

国人殮以石棺、乃満用蜜浸。

国人殮(おさ)むるに石棺を以てし、すなわち蜜を用いて満たし浸す。

その国のひとびとはこの「蜜人」の体を石の棺に納め、その中にハチミツを満たして蓋をするのである。

この石の棺の蓋に、その日を刻んで「蜜人」専用の墓地に埋めておく。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・百年後。

「本年○月○日に、××という蜜人が生まれてから百年になられる」

ということが国中に知らされる。

その日になると、百年を経た蜜人の棺は、ひとびとの見守る中で開かれるのである。

すると、棺の中は、ただ

蜜剤也。

蜜剤なり。

どろりとしたハチミツの薬剤が溜まっているばかりである。

蜜人は形を失い、ハチミツに溶け込んでしまっているのだ。

この蜜人の溶け込んだハチミツは、

凡人損折肢体、食匙許、立癒。

およそ人、肢体を損折するに、匙ばかりを食らえばたちどころに癒ゆ。

ひとが腕や足を折ったり体のどこかを傷つけたとき、ひとさじばかり摂取すれば、あっという間に治ってしまう。

という妙薬となるのである。

この「蜜人」なる薬は回回の地でもなかなか手に入りずらいものであるという。

なお、かの国の言葉では、これを「木乃伊」(もくだいい。「みいら」)と称する。

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陶九成「南村輟耕録」巻三より。

明の李時珍「本草綱目」の第五十二巻(最終巻)にこの話を引いて、

不知果有否、姑附巻末、以俟博識。

果たして有るや否やを知らず、しばらく巻末に附して以て博識を俟つ。

本当のところ、こんなことがあるのか無いのかわからないので、とりあえず最終巻に記しておく。どなたか博識の方に正否をご教示いただきたい。

と言っている(ただし、「本草綱目」に引用される記事では、「木乃伊」が作られるのは「回回」ではなく「天方」(メッカのこと)である、という)のだが、大博物学者の李先生らしくないですなあ。本に書いてあるんだからあるに決まっているではないか、とは何故考えられないのでしょうか。たいていのことはどうせバレないし、バレたって「知らなかった」「秘書が秘書が」と言っておけばどうやら許されるらしいことぐらい、今やコドモでも知っているのに・・・。

 

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