平成22年1月11日(月)  目次へ  前回に戻る

星の異変が起こるか?

起こる前に言っておきます。

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北宋・仁宗の至和元年。この年は皇祐六年だったのですが、四月に司天監の予告どおり日食があり、これを機に至和と改元されたのですが、その五月己丑の日、

(客星)出天関東南、可数寸。

客星、天関の東南に出づ、数寸なるべし。

「客星」が天関星の東南に出た! 大きさ(見かけの)は数寸にも達した。

のであった。(宋史巻五十六・天文志九)

これが史上に名高い1054年の「かに座超新星」の記録である。

歳余稍没。

歳余にしてやや没す。

一年あまり見えていたが、その後徐々に見えなくなった。

現在は「かに座星雲」になっとるわけです。

オリオン座ベテルギウスが超新星になりそうだ(ただし、科学者たちの言によれば「明日かも知れないし数万年の後かも知れない」のだが)という。「かに座超新星」は金星ぐらいの明るさだったそうですが、今度のは近いので満月ほどの明るさになるという。ほんとに起こったら(ガンマ線の問題など怖ろしい予測もありますが)、人類の霊的ステージにも変動があるかも知れんような精神的な事件になりそうですね。

楽しみだなあ。ひひひ・・・ひいっひっひっひっひっひ・・・。

ちなみに現在「超新星」といわれる天文事象は、東洋天文学では「客星」といいます。「客星」の記録は、北宋・南宋の間だけでも、「かに座超新星」(赤字)を含め

・建隆二年〜三年 (961〜962) 

・太平興国八年 (983)

・端拱二年〜淳化元年 (989〜990)

・景徳二年〜景徳三年 (1005〜1006)

・大中祥符四年 (1011)

・天禧五年  (1021)

・明道元年  (1032)

・至和元年〜至和二年  (1054〜1055) 

・煕寧二年〜煕寧三年 (1069〜1070)

・元祐六年〜七年 (1091〜1092)

・紹興八年〜九年 (1138〜1139)

・乾道二年  (1166)

・淳煕八年〜九年 (1172〜1173)

・嘉泰三年 (1203)

・嘉定十七年 (1224)

・嘉煕四年 (1240)

と合わせて16回も遺されておるのですが、超新星の「物的証拠」である「星雲」が残されているものは少なく、多くが彗星や小惑星などの誤認ではないか(あるいはUFO母船が長期間一定の場所に止まっていたこともあるのかも知れませぬ)とされております。

宋代の天文学では、これらの客星は「五つの星」から成っている、とされておりました。そのときどきの天運を享けて、で五つの客星のうちのどれかが現われるのだ、というのです。

五星とは次の五つである。

@    周伯

大而黄、煌煌然所見之国兵喪饑饉民庶流亡。

大にして黄、煌々然として見るところの国、兵・喪・飢饉・民庶流亡す。

大きい。黄色。きらきらと光る。その星の現われた天の領域に該当する地上の地域では、戦争・王侯の死・飢饉・困窮した人民の大規模な移動が起こる。

A    老子

 明大、純白、出則饑、為凶、為善、為悪、為喜、為怒。

 明らかにして大、純白。出づればすなわち饑え、凶たり、善たり、悪たり、喜たり、怒たり。

 明るく大きな星である。色は純白。出た地方は飢饉が起こる。凶事が起こることもあり、善事が起こることもあり、悪事が起こることもあり、喜びをもたらすこともあり、怒りを巻き起こすこともある。

B    王蓬絮

 状如粉絮拂拂然、見則其国兵起、有白衣之会。

 状は粉絮の如く拂々然たり、見るればすなわちその国、兵起こり、白衣の会あり。

 その様子はわたくずがぼろぼろになったようにばらばらである(星雲状であることをいうか)。現われた地域には戦争があり、白い着物を着て集まる会合(葬送のこと)がある。 

C    国皇

 大而黄白、有芒角、主兵起水災、人主悪之。

 大にして黄白、芒角あり、主として兵あり、水災を起こし、人主これを悪む。

 大きい。色は黄色がかった白。光芒が出る。主として戦争、また水害があるので、皇帝・王侯はこの星をいやがる。

D    温星

 色白、状如風動揺常出四隅、皆主兵。

 色白く、状は風に動揺して常に四隅に出づ、みな主として兵あり。

 色は白く、状態は風によって動き、天の四隅(東北、東南、西北、西南のこと)に移動する。その移動した星域に該当する地上の各地にはみな主として戦争が起こる。

どれが出ても怖ろしいことが起こるのですなあ。今度のはどれになるのでしょうか。

なお、この五星のほかにも、四隅にそれぞれ三つづつの客星が隠れているのだそうで、

東南=盗星。これが出れば群盗が起こる。

西南=種陵。これが出れば穀物の量が不足し、値段が高くなる。

西北=天狗。これが出れば天が下すべて飢饉となる。

東北=女帛。これが出れば王侯に喪のことがある。

のだそうです。これと五星の関係はいまいちわかりません。(以上、五星・四隅三星のことは「宋史巻五十二・天文志五」による)

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天変地異あれば必ずや人妖起こるもの。今度のも早くも2013年のマヤ金星暦の終末と関係あるかと悩みはじめ不安になっているひとも多かろうと思われます(←肝冷斎含む)。11世紀の大宋帝国でも同様に社会不安が伴ったようで、かに座超新星がなお空に見えた至和元年の十二月、仁宗皇帝は詔を下して、民間の家庭に天文算術(の占い)を行う者が出入りすることを禁じている宋史巻十二・仁宗本紀四)のである。

夜空にでかい天変が見えたらみんな騒ぎますよね。楽しみだなあ。

 

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