生きるのは大変ですなあ。何やっても後悔しそう。

 

平成21年 4月21日(火)  目次へ  昨日に戻る

今日は林光、字・緝煕の話をします。(4.14の続きになります)

林は広東の東莞のひと、成化元年(1465)に挙人(科挙の地方試験の合格者)となり、同五年(1469)に会試(中央試験)を受けるために北京に出てきたのであるが、ここで当時大学にあった広州の先輩・陳白沙に出会った。

出会って何を語ったのかは記録がありませんが、

語大契。

語りて大いに契す。

語りあって、大いに心に期すところがあった。

結局試験を受けずに白沙とともに広東に帰郷し、定山の山中に小屋を作って住んで、

往来問学者二十年。

往来して学者に問うこと二十年なり。

それから二十年というもの(←実際には十五年ぐらい)、あちらこちらの学者を訪ねて疑問とするところを問う日々であった。

もちろん最も頻繁に訪ねたのは陳白沙であり、当時の白沙は林のことを

其所見、甚是超脱、甚是完全。

その見るところ、甚だこれ超脱にして甚だこれ完全なり。

彼の所見は、ずば抜けており、完全である。

と称賛していた。

林はあちこちを往来したが、決して高名ではなかったので、彼のところにわざわざ訪れる者は李大崖ぐらいであったそうだが、その李大崖に対して

あるとき、

所謂聞道者、在自得耳。読尽天下書、説尽天下理、無自得入頭処、終是阮轣B

いわゆる道を聞くとは自得にあるのみ。天下の書を読み尽くし、天下の理を説き尽くすといえども、自得して入頭するところ無くんば、ついにこれ閧ネり。

いわゆる道を聞く、ということは、自分で会得することである。それ以外のことではない。天下にありとある書物を読み尽くし、天下にありとあることわりを説明し尽くせたとしても、自分で会得して頭を突っ込んでいるところが無いのであれば、ただ何もしていないのと同じである。

と厳しいことを言うていたのだった。

しかし、林は、やがて人生の重大な場面において失敗を犯してしまった。

彼は成化二十年(1484)に至って再び会試を受験し、このたびは合格して平湖教諭に任ぜられた。その後、さらに数州の府学教授を歴任した後、国子博士の待遇に至って致仕(退職)し、帰郷して亡くなった。

年八十一という。

彼の失敗はこの決して高位でも高禄でも無い官職に就いたこと、正確には就き続けたことにあった。

もともと、林は官職を得たいとは思っていなかったのであるが、家貧しく、老母を養うために平湖教諭となったのである。

その任期が終わって帰郷しようと考えたときには、なお母は元気であった。次の任地として郷里の広州を選んで孝養を尽くしたいと考えていたのであるが、いまだそのことを当路者に陳情する前に河南に職を与えられた。母親を郷里に置いたまま任地に赴き、辞職するか母を迎えるか決めかねているうちに(任官後いまだ一年ならず、という)、母は亡くなってしまったのだった。

この行動につき白沙は林を責め、ほとんど絶交に至ったという。白沙の言うには、

其因升斗之禄以求便養、無難処者。特於語黙進退斟酌早晩之宜、不能自決、遂貽此悔。胸中不皎潔磊落也。

それ升斗の禄によりて以て便養を求むるは難処する者無し。特に、語黙・進退・斟酌・早晩の宜において自決するあたわず、ついにこの悔いを貽(のこ)す。胸中の皎潔(きょうけつ)にして磊落ならざるがためなり。

一升や一斗のわずかな俸禄を得て親を養う便宜にするということについて、それを受けるか断るかの対処に難しいことなどありはしない。ただお前さんは、語るか黙るか、進むか退くか、時期はいつごろがいいのか、これらについて案配し自分で決めることがうまくできず、(親が亡くなるときに側にいないという)大失敗をして後悔する羽目になったのだ。それは胸中が真っ白で清潔、何物にも囚われない磊落な心になっていなかったからなのだ。

というのである。

林は相当反省したが、白沙はさらに許さず、

定山為窘所逼、無如之何、走去平湖、商量幾日求活。一斉誤了也。

定山にて逼(せま)られ窘(くるし)みを為すはこれを如何ともする無く、走りて平湖に去りて幾日の活を求めんと商量するか。一斉に誤了すなり。

定山で貧しい生活を送って逼迫しているときにはこれを何とかしようという方法も考えず、逃げ出して平湖教諭になったときは、そこでどれぐらいの間俸禄を得ようと考えていたのか。お前はどちらにおいても大間違いをしていたのだ。

と、その怒りは解けなかったという。

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母親が卒した後も次々に仕事に就いているので、白沙先生の性格からすれば怒るのも無理は無いかも知れませんね。ほんとのところはよくわかりませんが、ヨメとかにうるさいのがいたのかも知れんし。

「明儒学案」巻六より。

 

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