平成21年11月21日(土)  目次へ  前回に戻る

タバコのこと。

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烟草は、諸書にはもともと呂宋(るそん)に産したものがチャイナ各地でも栽培されるようになったのだ、とあるが、関外(山海関の外、遼東・満洲の地)のひとたちは違うことを言うている。

関外人の相伝えるところでは、

本於高麗国。

高麗国に本づく。

もともとは高麗の国で産出されたのである。

というのである。

悲しい物語があるのである。

・・・そのむかし。

高麗の国では、若い王様と優しいお妃様がとても仲むつまじく暮らしておられた。しかし、その暮らしは長くは続かなかった。幸せのかかとには、必ず悲しみがくっついているのでしょうなあ。

其妃死。国王哭之慟。夜夢妃告白。

その妃死す。国王これを哭して慟す。夜、夢に妃の告げて曰う。

ちょっとした病で床に就いたかと思ったお妃さまが、あれよあれよという間に亡くなってしまわれたのだ。王様は己れの身も滅べとばかりに悲しみに泣き震えられた。

幾夜も幾夜も泣いて泣き明かされ、妃の葬りを終えた夜にも、独り寝に泣きながら眠られた王様の夢に、お妃様があらわれて、おっしゃられたのだ。

その言に曰く、

塚生一卉、采之焙乾、以火燃之而吸其烟。則可止悲。

塚に一卉を生ぜん、これを采りて焙乾し、火を以てこれを燃やしてその烟を吸え。すなわち悲しみを止めるべし。

「あなた・・・そんなに悲しまないでくださいな。わたしを葬ったお墓に一本の草を生えさせておきます。どうしてもどうしても悲しみの止まないときは、その草を採って炙って乾かし、それに火をつけて煙を吸ってくださいな。あなたはその間、悲しみを忘れることができるでしょう。」

翌朝、目を覚まされた王様は、

王如言、採得、遂伝其種。

言の如く採得し、遂にその種を伝う。

その言葉のとおりに草を見つけ、言われたとおりに煙を吸い、悲しみを忘れることができた。

「・・・この世にどうにもならない悲しみを懐くひとはわたしのほかにもたくさんいる。お前たちもこの草の煙を吸ってみるといい」

王様はその草の種を増やすと、悲しみを抱くひとびとに分け与えたという。

ちなみに、今(18世紀の初めごろ)、この草は天下にあまねく満ち満ちているが、その名を

外国では・・・髪糸

福建では・・・建烟、特に最高級品を蓋露という

石馬・余塘・浦城・済寧では・・・乾糸、油糸

お香を混ぜたものを・・・香烟

蘭の花の実を混ぜたものを・・・蘭花煙

このほか、各地に特段の名のない烟草がはなはだたくさんある。いまや黄色いくちばしの子ども、白い髪のじじい、カーテンの中の淑女、十人に八人は吸うており、しかもみな一刻も手から離せないほどに広まっているのである。

なお、この草の粉末に香りある花の露を細かく潰して混ぜ、鼻の中に嗅ぎ入れ、寒気を防止し頭痛や目眩、鼻づまりを癒す

鼻烟

はその品は高級であるが、

不似烟草之広且衆也。

烟草の広くかつ衆なるには似ず。

タバコの広範にして多くのひとに用いられているのとは違い、普及はしていない。

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清・劉在園「在園雑志」巻三より。(←おやじどのの出てこない話もあるのですね。)

そんだけの効果のあるのはタバコではなくて○○○ではないか・・・と思ったけど、「じゃあおまえはその○○○の効果を知って入るのか」と逆襲されるとマズいので、これ以上突っ込むのはやめておきます。

がんがん増税するそうですね。タバコは

悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪いーーー!

と言い続けて、誰にも吸えなくするといいさ。どうにもならない悲しみを抱えたひとは、癒す術もなくたたずみ続けることだろう。

 

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